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見上げると、飼い猫のお尻が見えた。
正確には、元飼い猫。
去年の秋、あっさりと旅立っていった。
体のサイズは秋田犬くらいになってるけど、あたしが見間違えるわけがない。
黒い觔斗雲のようなものの上で香箱座りをして、尻尾を垂らしている。
その見慣れていた長い尻尾を、あたしは今、両手で握っているのだった。
耳とヒゲをピンと立てながら、猫は振り向いてあたしの手を見た。明らかにご不満の様子である。
踏まれたときによくこういう顔をしていた。さっきの声もそっくりだ。
----足元にばっかり来るあんただって悪かったと思うよ。
そんな文句は飲み込んだ。この際。
「あ、ありがとう。助けてくれるの」
ご機嫌を取ると、耳をピコピコと細かく何度も動かす。
一応、聞いてはくれているようだ。
しかし、次の瞬間。
猫は鬱陶し気に、尻尾をぶん、と思いっきり振った。
「ああぁぁぁぁ----っ!」
当然、あたしの手は外れ、また落ちていく。
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