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また、手がなにかを握った。
いや違った。
握られてる。
目を開ける。
あたしはもう、落ちてなかった。
病院のベッドに横たわり、天井を見上げていた。
「目が覚めたか!」
涙声に横を見ると、ダンナが目じりを拭いながら、あたしの手を握ってた。
「道路の陥没事故に巻き込まれたの、覚えてるか? いっときは危なかったんだぞ。よかった……」
あー、死にかけたのか。
じゃああれはあの世だったのかな。
「あいつに会ったよ」
「あいつ?」
「猫」
ダンナは奇妙な顔をした。
「ペットロスの話か?」
「ちゃうちゃう。三途の川を渡るか渡らないか的な話。あいつがこっちに帰してくれたみたい。かなり強引な手法だったけど」
ダンナは首を傾げる。
「連れて行かないでくれ、って祈ったけど、そのせいかな」
「猫が跨がないように死人に小刀持たせるって言うし、あの世と猫はなんか関係あるのかもね~。でもそんな義理堅いやつには見えなかったけど」
あたしはそう言って、身体を起こそうとした。その拍子に膝のうえからなにかが落ちる。
ちりん。
鈴が鳴る。
ねずみのおもちゃだった。
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