6 記憶のかけら

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「でも、尊はずっと、私がこのつらい記憶を思い出さないようにしてくれてたんだよね。だから高校の話題も、私からの問いかけのことも避けてた」 「……俺も、あの日屋上の方へ戻る亜子の後をつけたんだ。だから目撃してた、その場面を、雪斗が落ちる瞬間を。でも、亜子が階段から落ちて、直前の記憶がないって知って安心してしまった自分がいた。亜子がつらい思いしなくてすむって……。  それに雪斗のことは事故死になると思ってた。だから、寺島先生が容疑者にされて、っていう展開は予想外だった……鷹野にとってはそれも計算のうちだったんだろうし、そう仕向けたんだろうけど。  正直、亜子が『自分のせいで雪斗が落ちた』って思い出すくらいなら、俺が雪斗を落としたんだろ、って疑われても、今回のことも受け止めようと思ってた……。  当時俺にもっと勇気があって、ちゃんと警察にも見たことを話せていればあんなことにはならなかったんじゃないかって今でも思うから。万引き未遂のこともあって、自分が弱かったせいで、言えなかった。結局、鷹野の思うままになってしまった.....」  尊は静かに答えた。 「尊、一つだけ聞きたかったことがあるの」 「何?」 「どうして、写真を捨てなかったの? 送られてきたとき。あれを見つけなかったら、私、尊に不信感を抱くことも……」 「……笑ってたから」 「え?」 「亜子が、笑ってたから。どうしようもなく、笑顔で、捨てられなかった」
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