137人が本棚に入れています
本棚に追加
1 彼の写真
クリーム色のカーテンが揺れ、湿気を含んだ六月の風が頬を撫でる。パタパタと廊下を駆けるスリッパの音が響く。シーツの、ツンとする消毒液の匂いに、お見舞いの花々やフルーツの爽やかな香りが混じる。どこか懐かしい感じがする。
「日比谷先生、大丈夫ですか?」
体を起こした私の元へ、学年主任の早坂先生が駆け寄ってくる。
「あらもう、痛々しい」
白い包帯の巻かれた足首の捻挫と腕の打撲痕を見て、早坂先生は顔のパーツを全部中心に集めたような表情を作る。
「日比谷先生。びっくりしましたよ。階段からズダーッと転げ落ちたんですもの。あんな、前が見えなくなるほどいっぺんに運ぶ必要なかったのに。でも折れてなかったみたいでほんとよかった……」
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした」
「何を言ってるんです。こちらこそ、仕事中にこんな。手続きなどは心配しなくていいですから。落ち着くまでは、まず治すのに専念してください。学校の方は気にせず」
「すみません」と言いながら頭を下げていると、今度はスーツ姿の尊が息を切らして駆け込んでくる。
前かがみで膝に両手をあて、息を整えた尊は、
「はあ、びっくりした。大丈夫か? 体育祭の片付け中に怪我したって……」
今夜夕食を食べに行く約束をしていたので、怪我で行けない旨を連絡してはいたが、まさか病院に来るとは思わなかった。
最初のコメントを投稿しよう!