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「う、うん。あ、すみません、婚約者の藤堂尊さんです」
早坂先生の手前、急いで紹介をすると、尊も早坂先生の存在にやっと気がついたのか、気を取り直して挨拶をする。
「申し遅れましてすみません。いつも亜子がお世話になっています。婚約者の藤堂尊といいます」
「はじめまして。私は学年主任の早坂です。この度は大事な亜子さんに……」
早坂先生が申し訳なさそうに言うので
「いえ、早坂先生、やめてください。軽い捻挫と打撲ですから。それに私がドジなだけです……」
「でもまあ、藤堂さんが来てくださったのであれば安心ですね。では私はこれで。何か必要なものがあればいつでも連絡してください」
早坂先生は病室を出ていった。
「尊、ごめんね。体育祭の片付けで……荷物運んでたら、階段踏み外しちゃって」
「ほんと、ドジっていうか、危なっかしいっていうか。まあ、折れてはなくてほんとよかった。打撲と捻挫っていうから、とにかく安静だな」
「うん。数日で痛みも引くだろうって」
笑って頭をかくと、「ったく」と尊はホッとしたように微笑む。
帰りの支度をして、整形外科のフロアからエレベーターで一階へ降りる。
尊に体を支えられるようにしてタクシーの後部座席に座る。
「帰ったら、俺が夕飯作るから亜子は動くの禁止、わかったね?」
尊に頭をぽんぽんと撫でられる。
私は子供のように「はあい」と間延びした返事をする。
降り出した雨にワイパーで水滴をひと拭きしてから、タクシーは走り出した。
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