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〜十年前の花火〜
軽やかに鳴る下駄の音。行き交う人々の笑い声。煙に混じる香ばしいソースの匂い。
オレンジ色の夕暮れに、離れていく彼の背中――ソーダ色の浴衣を着て隣で微笑む彼女――あなたが黙って差し出してくれた甘く真っ赤なりんご飴――。
差し出されたそれよりも鮮明に、赤く視界を染める血の海が、あふれる涙で見えなくなっていく。
打ち上げられた花火を見上げるように、彼の体は平たく冷たい地に張り付いて、もう元に戻ることはない。
どうしてこんなことになってしまったのか。
全部、ぜんぶあの瞬間に終わった――私の初恋。
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