「視せてくれる人」

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「よく、20代までに、あれっ?30代でしたっけ?幽霊視ないと、その後、心霊現象に遭う事はないって言う話があるじゃないですか?」 知人の“A”は、これまで、映像作品や小説で聞く“心霊体験”に遭遇した事がないと話す。 「そもそも、周り、います?幽霊視た事あるとか、心霊写真撮ったとか…そーゆう人? いませんよね?だから、幽霊なんていない、そんなモンはデタラメだって、思ってたんですけど…」 彼の口ぶりから、心霊現象否定派なのは充分に伺える。また、A自身もそれを、友人達に 事あるごとに話し、心霊番組や“霊が視える”と自称する人々をあからさまに馬鹿する態度もあった。 そんなAに知人の紹介で、ある人物が紹介された。 「“視せてくれる人”って言う話でした…」 冗談だと思いつつも、Aはその人物と会う事にした。 「馬鹿にしてはいましたけど、実際会ってみて話を聞いてみるのもいいかなと思って、 生意気にも論破してやる気でいましたよ。ホント…馬鹿でした」 当日、指定された待ち合わせ場所には、知人の姿はなく、紹介された人物だけが彼を待っていた。 「俺と年が変わらない。凄い美人と言う感じではなかったけど、何か人好きのするタイプっていうか、全然、幽霊関係なくね?って言う感じで、サパーッとした女の人でした。 性格もすっごい気さくで、その勢いで居酒屋に入ったくらいですもん。話も楽しくてね。 盛り上がりましたよ」 “幽霊を視せてくれる事”など、すっかり忘れていたと言う。 「2軒目は、二人でカラオケに言って、3軒目はショットバーで強い酒飲んで、ベロン、 ベロン、その辺でようやく思い出しました。で、聞いたんですよ」 “そう言えばさぁ、〇〇(知人)から聞いたんだけど、視せてくれる人らしいじゃん? それ、どんな感じなの?“ 「彼女、急に静かになっちゃって… “ホントに視たいの?” って言うんです。だから、答えましたよ。 “ああ、視たいねぇ” って言ったら…」 Aの顔を掴み、自身の顔を一気に近づけてきたと言う。 「正直、キスしてくれるのかと思いました。視せるって、そーゆう意味? なんて、アホ考えてました」 “目を視て” 彼女の囁き声に従うと… 「女がいました。彼女の目の中に、普通、俺の顔か、近すぎて、真っ黒な筈の…瞳の中に、 顔色悪い無表情の女が立ってるんです。何処か余所の方に向いて…“えっ?”って言ったら…」 女がこちらを向いた。 「ニターッと、口が裂けて、中、真っ黒です。そいつが手を伸ばしてきて、悲鳴上げそうになったら、彼女が」 “ハイ、おしまい” って、ウィンクして…妙に明るい声でしたよ。席から立っちまって、それっきりです。連絡先?交換してませんでした。知人にも聞いたけど、俺に紹介した事すら“?”って感じで…訳がわからない。 あの目の中の女は?とか、初めてですよ。こんなの…初めての人には、重すぎますよ。これ…」 Aは持論を変えた。 「世の中、いますよ。何かはわからないけど、いるんです。確実です。俺は視ました。 あの子の瞳の中に…」…(終)
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