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 君は確かに消えた。  風の噂で性転換手術を受けたとか、そんな話を聞いた。本当かどうかはわからない。わからなくていい。  そして手紙が届いた。朝、玄関のドアのポストがカタリと鳴った瞬間に、わかった。ああ、君だって。  手紙は舞う。花びらのように、雪のように、桜のように。  どこに行ったかなんて聞かないよ。追いかけないよ、私は私だから。  一筆箋の最後の一切れが、別れを惜しむようにゆっくりと私の手のひらを離れる。  夜の高速道路。凪いだ紺色の海。ホタルのようなタバコの灯り。君の横顔。君の茶色の瞳。君の言葉。思い出も花びらのように舞う。  どこにいようと、私が私であることに変わりはない。そして、君が君であることに変わりはない。  大きく息を吸い込んで、顔を上げる。 「さよなら、元気で」  嫌いで仕方がない私の声も、花びらと共に風に舞う。 「さよなら」  柔らかな風が、花柄のワンピースの裾を揺らした。  
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