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 与えられた性別が私には合っていないと気づいたのは、4歳の時。  青い服、車のおもちゃ、戦隊もののアニメ。押し付けられるそれらは気分が悪かった。ピンクの花柄のワンピースを、隣の家の女の子が着ていた。欲しくて欲しくてたまらなかった。欲しいと言ったら、母はぎょっとした顔をした後に泣き始めた。それでもう、こんな事言っちゃいけないんだと悟った。  ずっと隠して生きてきた。でももう限界だった。  好きな服を着たい。私は女の子なのに。  そうして家から遠い遠い大学を選んで、一人暮らしを始めた。母はなにかと私に「男である」ということを押し付けてくる人だったから、家を出た時はせいせいした。悪い人ではなかった。でも、母といると、固く冷たい箱に無理矢理押し込まれるような、そんな息苦しさがあった。  たくさん好きな服を買って、髪を伸ばした。喉仏はストールやマフラーで隠した。メイクも練習して、女の子に見えるように振る舞った。幸い身長がそう高くないお陰で、黙っていれば女子に見えた。  ただ、声は誤魔化せない。呪いのように私の声は低かった。歌のパートで言えばバリトン。誰が聞いてもわかる男の声。だからずっと黙っていた。マスクをして、風邪で声が出ないふりをしたりして。  そんな時に声をかけてきた君。黙って隣に座っている時は、女だとわからなかった。 「じゃ、行くか」  チャイムに紛れて聞こえたのは、女の子の声だった。はっとした。  わたしと、おなじひと?  君の目が、まっすぐに私を見つめていた。何も言わなかったけど、わかった。 「同じ秘密を、抱えているでしょう?」  ブラウンの瞳がそう言っていた。
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