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夜のドライブが好きだった。高速道路に乗って、窓の外を流れる灰色の壁をじっと見ていると、置いてきた世界のことなんてどうでも良くなってくる。
ふいに防音壁が途切れた時。そこで見える景色が真っ暗な山だったり、美しい夜景だったりするのも好きだった。世界は私の知らないところで回っている。
大きなサービスエリアより、小さなパーキングエリアを選んでよく車を停めていた。それは今日も例外ではなく、トイレと自動販売機以外何も置いていないようなパーキングエリアに車は停まった。
「トイレ、行きな」
一言それだけ私に言って、君はタバコに火をつける。ふわりと昇る白い煙と白い息。木々に囲まれた真っ暗な山の中のパーキングは、どこか異世界のようだった。
私がトイレを終えて戻る頃、君はタバコを足元に落とし、火を靴の裏で揉み消していた。入れ替わりのように男子トイレへと歩き出す。
踏みつけられたタバコが白い煙をか細く立ち昇らせているのを見て、ブーツで踏む。君がやっていたように。何度も何度も力を入れて踏む度に、花柄のワンピースの裾がゆらゆら揺れた。
もう消えたかな。そっと足を離すと、タバコは死んだようにぐちゃぐちゃになっていた。
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