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 着いたよ、という声で目を覚ます。いつの間にか寝ていたらしい。君はもう既に上着を羽織り、エンジンを切ってタバコを口に咥えていた。私もシートベルトを外し、膝にかけていたコートを羽織る。  連れて来られたのは夜の海だった。日本海なのか、太平洋なのかも私にはわからない。穏やかな波の音が響いていた。  タバコを咥えたままの君が私の手を引く。いつも君はごく普通に、自然に私の手を取る。それは恋人同士の触れ合いというより、はぐれないように親が子供の手を引くのに似ていた。  さらさらの砂がブーツの底を撫でる。転びそうになった私の手を、君がしっかりと握った。ありがとう、と呟いて体勢を立て直す。君は静かにタバコを燻らせる。
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