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レジャーシートなんて気の利いたものは持っていない。私たちは砂浜に直に腰を下ろした。
夜の海岸の濃紺に、君のタバコの火がぽつりと頼りなく宙に浮かんでいる。
ホタルみたい。横目で見ながらそう思う。風が吹いて、束ねていない髪がなびく。マフラーを巻き直して、顔を埋めた。こんな時期にホタルはいない、わかってるよ。
甘いような苦いようなタバコの煙が、風に流されて私を包む。
「俺さ」
タバコの灰を砂浜に落としながら、君が口を開いた。首を少し傾げて君を見る。君は私の方を見ることなく、ただじっと波を見ている。鼻筋の通った横顔に、触れたいと思った。
「俺さ、消えるんだ。ほんとの俺になるために」
夜の海に投げ捨てるように、君はぽつんとそう言った。
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