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 ポストを開けると、はらりと花柄の封筒が落ちた。  手袋を取って拾い上げる。差出人は書かれていない。でも筆跡でわかる、少し歪んだ君の文字。君から手紙を受け取るのは、はじめてのこと。  かじかんだ指先で封を開ける。3月の風は、まだ少し冷たい。  存外簡単に開いた封筒には、一筆箋が入っていた。 『さよなら、お元気で 俺は元気です』  君らしい文に苦笑した。笑みとともにこぼれた息が白く染まり、君の文字を隠すように視界を覆う。  一筆箋を二つ折りにして、指先に力を入れて引き裂いた。三回ほど破き、小さくなった紙を手のひらに乗せる。風に紙が舞う。花びらのように、桜のように。  朝日が私を、紙切れを、花びらを照らす。  さよなら、君も元気で。
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