2人が本棚に入れています
本棚に追加
少し力を込めただけで、春風が吹くように文字が走り出した。
鉛筆とは全然違う。初めてのシャープペンシル。
腕にぐっと力を入れなくたって、はっきりと濃い文字が白いノートに現れている。
しかも線は今まで自分が書いてきた文字よりも細く、まるで自分ではない誰かが書いたみたいだ。
シャープペンシルってすごい。
さすが、みんなが憧れてきただけの実力があるんだな、って感心する。
小学生の頃は、シャープペンシルを使ったことがなかった。
小学生は鉛筆、という風潮であったし、実際に私の大好きな前田先生だって、「小学生のうちは鉛筆を使ってね」って言っていたし。
前田先生が言うことだからたぶん、理由があるのだろう。小学生は鉛筆、の理由が。
それに理由なんて知らなくても、私には文字を書く手段として鉛筆で十分だった。
高学年になるにつれて、授業以外、家や塾でシャープペンシルを使っているという子はちらほらいるらしかった。
友達の咲希は、六年生の時、
「宿題をする時はシャーペンを使ってるんだ、唯子も使ってみなよ」
なんだかちょっと得意そうだった。
「いいね、でも私はいいや」
って断っちゃったけれど。
今まで握ってきた鉛筆ではなく、シャープペンシルという、長いカタカナの文房具に手を伸ばした小学六年生たちは、まるで大人の階段を少し上ったような、でも授業で使ってやろうという勇気までは持ち合わせていない、そんな感じだ。
最初のコメントを投稿しよう!