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夏休みに入る前日、謎はあっけなく解けた。
瀬川くんが転校すること。
2学期から横浜、すなわち中学一年生の力ではどうにもならないぐらい離れた場所に行っちゃうということ。
それが答えだった。
先生に挨拶を促された瀬川くんは、ただ一言、
「もっとみんなと一緒にいたかったです」
いつもと同じ、優しくて眩しい笑顔でいようとしていた。
そういうところが、大人びているようで、でもまだまだ自分の力ではどうにもできないことを背負った、私たちと同じ世代の男の子だった。
初めての恋と、初めての失恋。
横浜かー、一気に両方経験しちゃうなんて忙しいなぁ。
ほんの少しだけ大人っぽさが取れて小さくなったような左斜め前の席の瀬川くんを見つめながら、ぼんやりと考えていた。
次の瞬間、胸がぎゅっと音を立てた。
それに同調するかのように、校庭の緑が揺れる。
緑が揺れているのか、視界が揺れているのか分からない。どっちでもいい。
手にするものが鉛筆からシャープペンシルになったところで、私たちは大人にはなれない。
大人だと思っていた瀬川くんだって、この広い世界の中ではまだ子どもなのだ。
とりあえず、今の私たちに似合わないからっからの快晴を越えるぐらいの笑顔でさよならを言おう。
「初めて」をたくさん経験していって、
初めてのことがどんどん減っていって、
そうやって私たちはやっと大人に近づいていくのかもしれない。
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