初めてのおしまい

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少し力を込めただけで、春風が吹くように文字が走り出した。 鉛筆とは全然違う。初めてのシャープペンシル。 腕にぐっと力を入れなくたって、はっきりと濃い文字が白いノートに現れている。 しかも線は今まで自分が書いてきた文字よりも細く、まるで自分ではない誰かが書いたみたいだ。 シャープペンシルってすごい。 さすが、みんなが憧れてきただけの実力があるんだな、って感心する。 小学生の頃は、シャープペンシルを使ったことがなかった。 小学生は鉛筆、という風潮であったし、実際に私の大好きな前田先生だって、「小学生のうちは鉛筆を使ってね」って言っていたし。 前田先生が言うことだからたぶん、理由があるのだろう。小学生は鉛筆、の理由が。 それに理由なんて知らなくても、私には文字を書く手段として鉛筆で十分だった。 高学年になるにつれて、授業以外、家や塾でシャープペンシルを使っているという子はちらほらいるらしかった。 友達の咲希(さき)は、六年生の時、 「宿題をする時はシャーペンを使ってるんだ、唯子(ゆいこ)も使ってみなよ」 なんだかちょっと得意そうだった。 「いいね、でも私はいいや」 って断っちゃったけれど。 今まで握ってきた鉛筆ではなく、シャープペンシルという、長いカタカナの文房具に手を伸ばした小学六年生たちは、まるで大人の階段を少し上ったような、でも授業で使ってやろうという勇気までは持ち合わせていない、そんな感じだ。
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