エピソード1

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

エピソード1

 ある国の王子様は言った。 「じいや、僕は恋がしたいぞ、どうにかしろ。」  爺やが答えた。 「坊ちゃん、恋はお相手様との絆がとても大切です。今までのように、爺や一人で何とかなるものではございません。それとも、、爺やが相手になりましょうか?」  王宮の中、いつものような急な王子様の要望にも、爺やは眉一つ動かさない。 「うへえ、笑えない冗談はよしてくれよ。」 「ほほ、失礼いたしました。ところで、坊ちゃん、これまた急に、どうして恋をされようと?」 「これを見てくれ。」  そういうと王子様は、机に積み上げられた中から一冊の本を爺やに渡した。 「これは、、、少女漫画ですかな?」 「そう、姉上から借りたものだ。」 「なるほど、、この漫画のように坊ちゃんも恋をされたいと思ったのですな。」 「まあ、そんなところだ。なんせ、恋をすれば必ず幸せになれるというからな。」  キラキラと目を輝かせている王子様に対し、爺やがコホンと1つ咳ばらいをして、尋ねた。 「『必ず』ですか、、、えー、坊ちゃん、それはどなたからお聞きに?」 「姉上だが?ああ、それにしても楽しみだ。最近、何か物足りなさを感じてしょうがなくてな、、どんなに美味しいものを食べても、どんなに綺麗な宝石を手に入れても、心が満足しない。しかし、恋をすれば、きっとこの気持ちも晴れるはず、、そうだろう?」 「えー、坊ちゃん、、少々誤解がありますようで、、恋をすれば『必ず』幸せになれるとは限りません…。」 「なに?恋をしても幸せになれないのか?」 「そういうわけでもございません、、幸せになるお方もいらっしゃるということです。」 「んん?どういうことだ?」  頭の上に?マークを浮かべる王子様に向かって爺やが説明する。 「先ほど申しました通り、恋はお相手様との絆がとても大切です。ですので、『幸せ』をつかめるかは、坊ちゃん、そしてお相手様次第ということです。」​ 「なるほど、、まあ、そんなことなら大丈夫だろう。王子の僕だ、できないはずがない。で、じいや、なんとかしろ。」 「ふむ、坊ちゃんがそこまでいうのなら、、爺やも一肌脱がなくてはなりませんな。坊ちゃんの初めての恋、必ず成就させてみせましょう。」   爺やは、続けて言った。 「ときに、坊ちゃん、、明後日から小学校は春休みでしたかな?」 「そうだが、、なぜだ?」 「ほほ、そのお休みを使って、坊ちゃんに恋をして頂くのです。」 「むむ、明後日まで待たないといけないのか?」 「恋とは時間がかかるものなのですよ。」 「そうか、、、だが、できるだけ早くしてくれよ。僕は一刻も早く恋をしたいのだ。」 「かしこまりました。坊ちゃん、明後日からお見合いをしましょう。」 「お、お見合い?」 「ええ、国の貴族様や、隣国のお姫様にもお声かけしようと思います。」 「いや、そもそもお見合いってなんだ?何をすればいいんだ?」 「ただ好きにお話をすればいいのですよ、、もし気になる女性がいれば、後日お二人でどこかに行くお約束でもできれば完璧です。」 「ううむ、しかし、恋のためだ、やってやろうじゃないか。」  こうして、王子様のためのお見合い大作戦が始まった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!