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「自殺だって?」
探偵は深くソファーに腰掛けながら尋ねた。
「その通り、だから今回は君の手を借りることはないよ」
探偵の正面に座っているスーツ姿の男はそう答えた。探偵はコーヒーを一口飲むと
「まぁそう決めつけないで初めから話してみなよ。何か新しい発見があるかもしれないだろう?」
と話をうながした。
「なんだって君は今回の件に、そうこだわるんだ?何の変哲もない首吊り自殺だぞ」
スーツの男、刑事は不思議そうに探偵を見た。
「その首吊りの話、ちょっと気になる点があってね。だから是非聞いておきたい」
そう言うと探偵の目がギラリと光った。こうなるともう知りたいことを根掘り葉掘り聞き出すまで、彼は質問をやめることはない。
刑事はあきらめたように肩をすくめると
「分かったよ、話そう」
と言い、事件の顛末について語り始めた。
事件はとあるクリーニング店で起きた。
朝出勤してきた従業員が鍵を開け、店内に入ると首を吊っている店長を発見した。
その従業員はすぐに通報し、駆け付けた警察官によって店長の死亡が確認された。
店内に争った形跡はなく、ドアも窓も鍵が閉まっていた。鍵を持っているのは店長と従業員だけであり、この従業員は店長の死亡推定時刻に別の場所におり、アリバイが確認されている。
また店長は投資に失敗して借金があり、経済的に火の車だったことが分かっている。
複数の知人から金を借りており、毎日のように催促されていた。
そしてもう一つ、検死の結果、遺体の体内からは睡眠薬が検出された。
刑事は一通り詳細を述べると、手帳から目を上げ
「状況から見て明らかに自殺だよ。睡眠薬を飲んで、首を吊ったんだ。現場は争った形跡も、侵入された形跡も無かったし、なにより死因もロープで首を吊ったことによる窒息死だ。おまけに店長は金に困っていたという自殺する動機もある。
こんな明白だっていうのに君は一体何が気になるっていうんだ?」
探偵はニヤリと笑いながら答えた。
「たしかに明白だね。明らかに殺人だ」
「殺人だって!?」
刑事は信じられないといった表情で言った。
「君とは付き合いが長いし、何度も協力してもらったけど、今回ばかりは君の間違いだろう」
それを聞くと、探偵は面白くてたまらないといった表情で口を開いた。
「二つ確認したい。まず、被害者が死んでいた部屋の隣についてだ。そこはクリーニング済みの衣服を置いておく部屋なんじゃないか?」
探偵が尋ねると刑事は
「ああそうだ。もちろんその部屋も一通り調べたが、特に異常は無かったぞ」
「クリーニング済みの衣服を機械で仕分けしているんだろう?」
「その通りだ。大量の衣服を全て全自動で仕分けして、指定した服をカウンターまで運んでくれるシステムみたいだ。毎日開店の二時間程前から全自動で動き出して仕分けをしているみたいだ」
「いいぞ、予想した通りだ。」
探偵はうれしそうに笑うと、親指で顎をなでた。
「何が予想した通りなのか、教えてくれないか。俺には何が何だかさっぱりだ。」
「まぁ待ってくれ、もう一つのことを確認してからでも遅くはない」
「いったい何を聞きたいっていうんだ?言った通り、特に怪しい物は何も出なかったんだが」
「いや、聞きたいのはロープについてさ」
「ロープ?被害者が首を吊るのに使ったやつか?でも特に何の特徴もない、どこのホームセンターにも売っている普通のロープだったぞ」
刑事がそう答えると、探偵は首を横に振りながら
「聞きたいことはロープの端についてさ」
「ロープの端?」
「ロープの端が千切られたようになっていたんじゃないか?刃物で切ったようにではなく」
「いったい君は何を知りたいんだ?ずばり教えてくれないか?」
「まぁとにかく確認してみてくれよ。それで全てのピースが埋まるんだ」
探偵は嬉しそうに笑いながらそう言った。
刑事が電話を終え、探偵の前に戻ってきた。その顔は驚きと困惑が半々といったところだった。
「君の言った通りだったよ。ロープの端は千切れたようになっていた。
鑑識の話じゃ何か強い力で引きちぎられたような切り口になっていたそうだ。
でも君はなぜそんなことが分かったんだ?」
それを聞くと探偵はカップに残っているコーヒーをぐいと飲み干し、足を組み、口を開いた。
「これで全てピースはそろったよ」
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