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黒猫は、不幸を運ぶなんてうそだ。
少なくとも、わたしは黒猫にしあわせをおすそ分けしてもらっているから。
我が家の黒猫の名前は、庵助。カギ尻尾がトレードマークのオスの黒猫だ。
庵助は、中学2年だったわたしのもとに突然現れた。
お世辞にもかわいいとはいえないしわくちゃ顔で弱々しく鳴く庵助。いや、そのときはまだ庵助じゃなくてただの黒猫。
家を出たら小さな黒猫がいたから、わたしは混乱してお母さんを呼んだ。
お母さんは、あらあらといいながら黒猫をみていた。
お母さんと一緒に外食をする夜の日に黒猫は、わたしたちをとてとて、と追ってきた。
お母さんは『ごめんね』と謝りながら、わたしと一緒に車に乗り出かけた。
外食から帰ってきて2時間は経っているし、そろそろいないだろう、と思っていたけど、あまかった。
黒猫は、先程よりも強くニャアニャア鳴いていた。
さすがに可哀想だと思ったから、お母さんに相談したらお母さんは黒猫をヒョイッと抱えて家に入った。
そのときから、黒猫は我が物顔で家の中を闊歩した。
あんな弱々しく鳴いていたくせに。
もしかしたら、侵略しにきたんじゃないか。
そんなわたしを横でお母さんが動物病院に連絡を取って、明日動物病院に行くといった。
ちなみに、ペット保険にも加入したらしい。
翌朝、朝食を食べたり着替えたりして黒猫をなぜかあった通院用バッグに入れて動物病院に向かった。
動物病院に着いたら他の犬猫が待つ中、うちの黒猫は他の犬猫の匂いに怯えていた。
それからうちの黒猫が呼ばれて名前を聞かれたから、適当に“庵助”と名付けた。
いまから、黒猫から庵助になった。
庵助は診察台に載せられつつも、怖さのあまり暴れていた。
それを見たお母さんが『あんたにそっくり』と笑っていた。
それから、ペット用品を一通り揃えて家に帰る。
庵助用のトイレを設置して、庵助にトイレのしつけをした。
庵助は賢い黒猫だから、すぐにトイレを覚えた。
今回庵助を迎えてわかったことは、お母さんが大の猫好きであること。
よくよく思い返せば、昔から猫雑貨が家に飾られていたし猫のDVDもよく見ていた気がする。
それで、たまにお父さんが『ママは、ほんとうに猫好きだよな』と半分呆れ笑いしていた気もした。
そういえば、お父さんが単身赴任してからはお母さんはどこか寂しそうだった。
庵助は、もしかしてお母さんのために来てくれたのかな、なんて。
そう余裕ぶってみせたが、いままでひとりっ子だったから庵助にお母さんが取られたみたいでちょっと悔しかった。
弟ができると、こんな感じなのか。
よく兄弟いる友達の愚痴の意味がわかった気がした。
そんな昔のことを思い出していた。
庵助は、いまや8歳になり、わたしももう大学生だ。
いまは、庵助は実家でお母さんとお父さんと仲良く暮らしている。
ピロリンとスマホが鳴る。
お母さんからメッセージが届いていたから見たら、庵助が舌をしまい忘れているかわいい写真を送ってきた。
ああ、実家に帰りたくなってきた。
そういえばもうすぐ冬休みだから、実家に帰省しよう。
だから、はやくレポート終わらして実家で庵助と遊ぶのだ。
庵助は、寂しかった我が家にしあわせを届けてくれた。
お母さんとお父さんも庵助がいるから、いつも笑顔らしい。
庵助、この家に来てくれてありがとう。
送られてきた庵助の写真を眺めながら、わたしはそうつぶやいたのだった。
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