最終章 新たな旅立ち

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最終章 新たな旅立ち

「シスター・サララ、お願い!」 黒髪の少年、ヒロがぴょこぴょこ跳ねる。 「ダメです」 シスター・サララははっきりとした口調で言った。 「おーねーがーいー!」 「ダーメーでーすー!」 「僕には剣の才能があるんだよ! それはシスターも認めてるだろ? 冒険家になっても剣で未来を切り拓いていけるさ!」 「確かに、あなたには剣の才能があります。でも胃腸が悪くて、毎日の薬が欠かせないでしょう? 冒険家になれるわけがないでしょう!」 「うっ、確かにそうだけど・・・。僕達、もう十五歳だよ!? 自分のことは自分で決めたいんだ!!」 ヒロが腰に手を当てて胸を張り、言い切る。 「俺からもお願いします、シスター。俺、冒険家になってもっと強くなりたいんです!」 茶髪のナオが顔の前で両手を合わせる。シスター・サララのこめかみに血管が浮き上がる。 「村で就職するのに戦闘の経験なんて要りません!」 「俺からもお願い、シスター。俺、世界を渡り歩いて見聞を広めたいんだ」 赤髪のシノも加勢する。 「あなたはいつも本を読んでいるでしょう? 成績だって院で一番じゃないですか。村で就職するならそれで充分です!」 ヒロが全身を震わせて抗議する。 「あーっもう! 分からず屋! 僕達、勝手に出て行くからね!」 「俺達、本気です!」 「お願いです、シスター!」 シスター・サララが数え始めてから二週間はこのやりとりをしている。こめかみの血管を落ち着けるように指で押さえ、シスター・サララは深く溜息を吐いた。 「・・・。いいでしょう。そこまで言うのなら一つ条件があります。村のはずれにある幽霊屋敷のことは知っていますね?」 三人組が顔を輝かせて反応する。 「それって、大人達が『絶対に入っちゃいけない』って何度も言ってた、あの幽霊屋敷のこと?」 「そうです。その幽霊屋敷の怪異を解明しなさい」 「ええっ!?」 三人組の声が重なった。シスター・サララは静かに続ける。 「世界を旅する冒険家なら、これくらいの困難、乗り越えられなくてどうします。怪異を解明できたら、冒険家になることを認めましょう。期間は一週間設けます。もし一週間以内に解明できなかったら、大人しく村で就職するんですよ」 「まっかせといて! 大冒険家ヒロ様の冒険譚の始まりだ!」 三人組が部屋から出て行く。サララはずっと堪えていた笑みを漏らした。 「若い頃の私達そっくりなんだから・・・。シスター・ヴィクトリアもこんな気持ちだったのかしらね」 コンコン、と部屋の扉がノックされた。 「どうぞ」 中に入ってきたのは、イリスだった。 「イリス! 久しぶりね! 五年振りかしら?」 「久しぶり、サララ。落ち着いた場所で本を書きたくてね。暫く村の宿に滞在するよ」 「まあ! 嬉しいわ。座って座って」 イリスが椅子に座る。サララが問う。 「ジャギーさんとベイオネットさんは?」 「ジャギーは村の子供と遊んでるよ。ベイオネットは寝てる」 「そう・・・。あのね、一つ、お願いがあるんだけど」 「何?」 「さっきね、孤児院の問題児三人組が飛び出していったの。幽霊屋敷の怪異を解明するためにね」 「なぁんか聞いたことがあるエピソードですわね」 イリスがおどける。 「今、幽霊屋敷にはマリーが居るでしょう?」 「パトリシアみたいで笑っちゃうよ」 イリスの背後からにょきっとパトリシアが現れた。 「笑わなくてもいいじゃない! 失礼しちゃうわ!」 「まあまあ。村の創始者のエマは旅に出ちゃったでしょ? 道案内の魔女の役が不足してるのよ」 「私にやれって?」 「若い世代の新たな旅立ちに、力を貸してちょうだい」 イリスは苦笑した。 「じゃ、おばあさんの長話でも聞かせてやりますかね」 むかし、むかしのおはなしです。 『闇』と『光』がうまれました。 『闇』と『光』は『世界』をつくりました。  そして、『世界』をよっつにわけました。 『火』と『水』と『風』と『土』。  よっつにわけた『世界』に、 『闇』と『光』は『命』をつくりました。 『命』は『文明』をつくりました。 『文明』はみっつでできていました。  『創造』と『再生』と『破壊』。 『闇』と『光』はいつしかわすれさられ、  よっつの『元素』と、 『命』と『文明』だけがのこりました。 むかし、むかしのおはなしです・・・・・・。
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