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その日の夕食は、”はじめての家族の晩餐”で。
ラナンはお邪魔しないよ、と寮へ戻った。・・・そう。もちろん、夕食前までは我が家でゆっくりしてたの。
ずっと私をお膝にのせて、下ろしてくれなかった。あら?ゆっくりしたのは私で、ラナンは疲れたんじゃないかしら。
・・・私のことを子ども扱いするのが、どんどん酷くなってるわ。
馬車の乗り降りも、必ず抱き上げられるようになってしまったし。すぐに頭をなでなでされるし。
・・・ラナンは私を何もできない赤ちゃんだと思ってるのかしら?・・・はぁ。
食堂には、リムとリナーラと。・・・ノーラ。
私たち姉妹弟は、それぞれの席近くに立って。
父様と・・・お母様を待ってる。
3人とも緊張してるから、きっとわざとなんだと思うけど。
ノーラはずぅっと喋ってる。
「それで、お昼には、女主人となられたアンナ様のご挨拶があったんです。使用人はすべて玄関ホールへ集まりました。階段から降りてこられたアンナ様は残り数段のところで立ち止まり。皆を見回して、威厳のある声でお話しなさいましたわ。
・・・はぁぁぁぁ。素敵でした。昨日ウェディングドレスでお戻りだったのも素敵だったし、夕会、夜会用に着替えられた真っ赤なドレスも素敵でしたけど。普段着のドレスもまた素敵で・・・」
「ノーラ、素敵しか言ってないよ?」リムはなんだか呆れてるわ。
それから。
楽しそうに「それに、アンナ様はだめでしょ?」って言う。
「まぁぁぁ、リム坊ちゃま!そうですわ。奥様とお呼びするんでしたわ!」
ノーラは両手を握り合わせて嬉しそうに・・・奥様、奥様奥様うふふ。と練習?し始めて。
くすくす笑ってしまったわ。少しだけ緊張感は薄れたかもしれない。
それでもやっぱり、ノックの音にはどきっとしてしまった。
扉が開き。・・・・ええええ。
「最悪・・・」リナーラ、私もそう思うわ。
抱きしめてるみたいにアンナ母様にくっついた父様のエスコート。
エビネ様といい、どうしてあんな状態で優雅に動けるのかしら?
「昨日は式へのご列席をありがとう」
上席へ行って振り向いて。みんなの顔を順番に見てくださる。
私たちは、練習した通り。
「「「ご結婚おめでとうございます。
これから、よろしくお願いいたします、お母様」」」
声を揃えた。
・・・・・・・
沈黙。
・・・・・・・
「旦那様」
小さくアンナ母様が促す。次は父様が話すところだもの。
だけど。
「あぁ。そう呼ばれるのも悪くはないけど。だけど、杏。言ったよね?
私のことは・・・」とろけそうな甘い声。
まぁ。リムが、ぽかんとしてるわ。そうよねぇ。リムはこんな父様見るのは初めてよねぇ。
「父様!」リナーラは父様の言葉を遮る。「そういうのは、おふたりだけの時にしてください」
「父様・・・。
私たちを新しいお母様に紹介してくれないといけない場面ですわ」私もそう苦言を呈す。
・・・だけど。父様ったら。
「え?でもみんな知ってるよね?」
そうなんだけど。そうじゃなくて!!
様式美というか。新しいお母様に対する礼儀というか・・・・。
はぁぁぁぁぁぁぁあ!
父様以外のみんなで、大仰にため息ついてみる。
「我が家はこんな風に・・・いろいろ適当です。・・・許してくれますか?」
「よぉく知ってますから大丈夫ですよ・・・・リナーラ」
ずるいわ!最初に呼んでもらうのはリナーラなの?!
私が、文句を言う前に。
「ずるいよ!僕のことも呼んで!」
って可愛らしく言うリム。
「リムナンテス。・・・これからも仲良くしてくれる?」
お母様はすごく優しく言う。リムはぽっと顔を赤くした。
「うん・・・・・お母様」
リムにとっては・・・初めてのお母様への呼びかけ。
すっと片手を胸に充てているわ。きっと感動したのだわ。
生まれると同時に母を亡くしたリムは、肖像画にしかそう呼びかけたことはなかった。私がリムの実母にぬくもりをもらったように。・・・母というぬくもりをこれからたくさん知ってほしい。
なんだか、泣きそうで。
私はアンナ母様のほうを見れなかった。
お母様は席のそばを離れて、俯いてしまった私の近くに・・・。
「帰ってきましたよ。・・・ルクリア・・・」
私を呼ぶ声は小さくて。でも呼び捨てで。・・・嬉しい。
アンナは、私を菫母様の代わりに考えてた。仕えるべき人間だと思ってた。
・・・だから、もしかしたら。私に対してだけ。侍女だった時と態度が変わらないかもしれないと怖かった・・・。
だけど。
次の瞬間には、お母様は私をぎゅっと抱きしめてくれた。
・・・覚悟をして。帰ってきてくれたんだ。
私の母になる覚悟・・・。
ずっとずっとそばにいてくれた侍女のアンナ。
そして。
「お母様・・・」私もぎゅっと彼女に抱き着いた。
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