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翌日も。
ラナンは学校の馬繋場で待っていてくれた。
今日はいつもより少しだけ遅れてしまったわ。待たせて申し訳ないわ。
馬車から、立っている彼をのぞき込む。
「お嬢様、危ないから座っていてくださいよ」
コチが送話管から声をかけてきた。
ちょっと身動きしただけよ?
父様はまだ起きれていなかったのに。コチはいつも通りだわ。
ノーラが言うには、明け方まで2人でお酒を嗜んでいたそうで。
「すっかり酔いつぶれた旦那様はうるさかったですわ。奥様への愛を叫んでいらっしゃいましたわ」寝不足そうな侍女が多かったのはそのせいかしら。申し訳ないわ・・・。
ラナンは、私を抱え上げて馬車からおろしてくれて。
「なんだかご機嫌だね。昨日はたっぷり新しいお母様に甘えた?」
「ひぇ?!」
なんだか変な声が出てしまった。いや、でもね?
『ど、ど、どうして知ってるの?シャガは夜は子爵家に居なかったわ。だ、誰が言ったの?お母様と一緒に眠ったって』
恥ずかしい。みんなに黙っててねってちゃんとお願いしたのに!
ラナンは一瞬固まって。ぶはっと吹き出した。
『今、君が言ったよ』
え?
今?
声を出さずに肩だけ震わしてラナンは笑う。
「俺は知らなかったのに。夕食で仲良く話せたかい?と訊いたつもりだったんだけどな」
え・・・・って。
呆けてラナンを見上げると。彼はにやにやするんだもの!
・・・く、くやしいぃぃぃ。
結局、昨夜のことを話させられた。
・
楽しい晩餐だった。
デザートが済んでも。誰も席を立とうとしなかった。
まだみんなでお喋りしたくって。
ゆっくりとお茶をいただいた。
手がすいた侍女たちもどんどん中へ入ってきて壁際に並ぶ。・・・みんな、嬉しそうだった。
まずリムが、今日はお母様と一緒に寝るんだ!って言いだして。
父様が駄目だ!って言って。
リナーラがじゃ、わたしが!って言いだして。
父様は駄目だったら!って言って。
リムとリナーラは、じぃぃぃぃぃっと私を見るから。逆らえなくて。
「私も」って言ったとたんに。父様は駄目ぇぇ!って。
ふふふ。
みんなで笑って。それで話は終わるんだと思ってたのに。
「承知いたしました」
ってコチが返事した。
ん?
コチはくるりと侍女たちを見て。
「客間の用意を。
クイーンサイズの横にダブルベッドをぴたりと並べてくれ。
本日の担当者は各自、湯あみ等眠る準備をお手伝いし、奥様方をその部屋へお連れするように。
旦那様は私が見張るから、後のことは頼んだよ」
そう言って、父様を引っ張って食堂を出て行った。
「ずるいぃぃぃぃ。私もぉぉぉぉぉぉ」って聞こえたけど。
完全に!完璧に!全員が無視してた・・・・。
・
「そうか。4人で一緒に眠ったんだね?」
ラナンは頭をなでなでなでなで・・・って。止めてくれない。
あぁ、またも子ども扱いされる理由が増えてしまったわ・・・。
でも。
『よかったね』って声は優しくて。
見上げたその瞳も『やさ・・・しそうな中に揶揄いの気持ちが入ってるわ!もう嫌い!』
私が泣きそうになってるのに!ラナンはふふっと笑う。
『その笑い方も嫌いなんだから!』人を魅了しようとしてるもの!
「そうなのか。・・・知らなかった」って呟くラナンは嬉しそうで。もっと頭にくるわ!
「・・・ねぇ。この話、誰にも言ってほしくないよね?」
教室の近くまで来て、ラナンは急に立ち止まる。
「あ、当たり前じゃないの!」
私はもう学校を卒業する年齢なのよ!いくら、弟妹に頼まれたからって、お母様と一緒に眠りましたなんて!誰にも言えないわ!
『明日の午後ちょっと付き合ってくれないかな。行きたいところがあるんだ』にやり。
『嫌だと言ったら?』
『ネモフィラ様はきっと。可愛いルクリアの話が聞きたいだろうね?』
・・・って。完全に脅しじゃないの!
ラナン。すごく悪い顔をしてるわ!
返事に躊躇していると。
「先週、何か食べに行きたいって言ってたよね?なんていうお店だっけ?
そこでお茶の時間にしようか?」
・・・く。
また私が皆様と話してるのを聞いていたのね。
教えていただいたそのお菓子は、すぐに溶けてしまうそうで。店舗でしか食べられないのを売りにしているそう。
「魔法をかけて持ち帰らせることは、簡単にできますわ」
「わざとそうしないで人気を出させようというのが。お店側の魂胆なんでしょうねぇ」って。皆様、言っていらしたわ。
なんだか騙されるような気分がして、行きたいような行きたくないような?
少し悩んではいたんだけど・・・。
ラナンが連れて行ってくれるんなら、やっぱり食べてみたいもの。
「・・・わかったわ」『だから、内緒にしてね?』
ラナンは嬉しそうに。ふふっと笑った。
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