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つい出た言葉。
だってむっとしたもの。
彼女は私を可愛らしいといい。その時私の胸元へ目を向けた。
・・・ラナンはグラマラスな方が好きなのかしら。大きなお胸の方と会ったのはもう2人目。
横を向くと、先ほどの夫人はにまりと私を見てる。
ふたり用のテーブルセット。向かい合って座ったラナンは。
ガタンと音を立てて立ち上がった。私の前へ来て跪く。
謝るつもりなら、やめて。立ち上がってほしくて手を引っ張ろうとしたのに。その手を取って、にっこりとほおずりされた。・・・は?
「これから先もずっと。
俺との未来を語るその言葉に、どれだけ心を鷲掴みにされたか。君にはきっとわからない。
幸せなんだ。君が明日も一緒にいてくれるかもしれないと思うだけで俺は」
『やめて!まわりに聞こえてしまうわ!』しかも、いったい何を言い出すの!?
跪くのもやめて!!
夕会でもやってくれて。どれだけ恥ずかしかったか!
『人前ではやめてちょうだい!』
ラナンがしぶしぶ立ち上がると。シャガは椅子を運んできてラナンを座らせる。その連携はスムーズで。最初からこうする気だった?
ぴったりと隣に座ったラナンは私の手を握ったまま。離さない。
このテーブルの近くは予約席専用。つまり貴族用らしくて。
護衛や侍女が近くに控えられるよう、テーブル同士の間は広く取ってあるし。お客様も割と少ない。
こちらの声が聞こえたらしいのは、ふた組のテーブルだけ。しかも彼らは知らん顔をしてくださっている。
遠くのお客様には気づかれなかったみたいだし。少しは良かったわ。
だけど。
・・・謝る気はないのね。にこにこしてるラナンにまたむっとする。
彼と話したくなくて。シャガへ話しかける。
「今日は、すごく楽しみだったのよ?シャガは新しいお菓子を知っていた?」
店舗でしか、食べられないというお菓子。
「食べてはおりませんが、半年ほど前に開発された菓子だと聞いております。
どんどん女性の間で人気になって。なかなか面白い菓子のようです」
シャガは、予約時に注文もしてくれていたらしく。
すぐにこの店の給仕が。・・・かなりの美丈夫が。お菓子とお茶を運んできた。
「どうぞ、こちらのお菓子は手でつまんでお召し上がりください。
手の熱ですぐに溶けますので、できるだけ早くお口へお運びください」
にこりと私を見つめる給仕を追い払うようにして、ラナンは皿を取り上げた。
お行儀が悪いわよ?
お皿にはいち・・・に・・・ろく、七色の・・・。
これは何かしら?
小さく丸められた糸玉のようなもの。それがクロカンブッシュのよう?に軽く積まれてる。なんだか可愛いけど。本当に食べ物なのかしら?
摘まめ、と言われたのでそっと手を伸ばす・・・けど。
ラナンの手のほうが早かった。
「へぇ。ふわふわした感触だ・・・あぁ、確かに溶けだしている」そう言うと私の口へ運ぶ。
!?
「・・・と、溶けちゃったわ」
入った瞬間に無くなってしまったわ。香りと甘みだけが残ってる。
ラナンは摘まんでいた右手の指を見ている。
「これは・・・飴かな。ひどく細い糸にして丸めてあるから溶けるんだろう」
私もそうかな、と思う。食べてみたらわかるはずだわ。私は青い糸玉を持ち上げて・・・まぁ、もう溶けてきているわ。指先がべとりとする。このままだと持っている間になくなってしまうわ!
「いそいで!」とラナンの口へ運んだ。
ぱくり・・・・って。ちょっと!『わ。私の指まで食べてるわ!』
『だって。飴が溶けてくっついているもの』
言いながら彼はぺろりと私の指についた飴をなめとった。
「な」
固まってしまった私の手を彼は左手でつかみ、水魔法で綺麗にしてくれた。
ぽかんとした口には、また右手でつまんだ菓子を運んでくる。
「早く、溶けるよ」と言われて慌てて口に入れる。
ん?ふわりとした香りがさっきと違うわ。色ごとに違うのかしら?
「美味しい?」頷くと次を運んでくれる。右手は握られたまま離してもらえなくて。
「あなたはもう食べないの?」
「甘すぎる。1個で十分だな・・・いや、また食べさせてくれるなら食べるけど」にやりとするから。
「またお口へ入れる気?いやよ」指をなめられた感触がよみがえって、どきっとする。
ふふっとラナンは皿へ手を伸ばし。次の・・・。「まぁ。溶けだしたのね?」
彼が摘まんだのは黄色い糸玉。だけど、緑と紫も一緒に持ち上がってる。くっつき始めたんだわ。室温でも溶けるのね。
見ているうちに緑色は皿に落ちて。ラナンは、ふたつの糸玉を私の口へ入れた。さっぱりと、甘々?混じるともっと美味しいわ。
お皿の上で溶けてしまわないか不安で、ぱくぱくと食べてしまう。
すぐに溶けてしまうのでお腹にたまる感覚はまるでなかった。不思議なお菓子だわ。
最後の1個。
ラナンはにやり。
あ、と思った時にはもう遅くって。
彼のひとさし指は、一緒に私の口の中へ押し込まれた。
飴を私の唇に押し付けるようにして、彼は指を抜き。
それでも指に残った飴を。今度は自分の口へ運んで・・・舐めとった。
「甘いね」って言葉は私を見つめたまま言われて。
自分でもかっと赤くなったのが分かった。
『な、な、なんてことをするのよ!』
彼は右手を水魔法で奇麗にすると。また私の顔へ手を伸ばす。
「可愛いね。・・・好きだよ。ルクリア。こんな気持ちは初めてだ。
君だけが特別なんだ」
『こ、声が大きいわ!』
ラナンはにこにこと私の頬を撫でる。
近くのテーブルの声が活発になる。皆様小声のおつもりですけど、がんがん聞こえてきてますわ!
ご友人3人でいらしたらしいご令嬢方は。
「ルクリア様って、あれじゃない?王子殿下のおかげで婚約なさったおふたり」
「噂のおふたり!?・・・そういえば、男性の髪は黒紫色だわ!」
「王立学校へ通ってる従弟から聞いたの。こちらが恥ずかしくなるくらい仲睦まじいって!」
「本当だったわ!」
「うん「本当だったわね」」
その隣のテーブルは、少し年上の男女ふたり。
「お互いに食べさせあうとか!そんな方たちを。は、初めて間近で見たわ」
「君もする?」くすりと男性は笑われて。
「む、無理よ!わたくしには!」女性は赤くなって俯かれた。
え?『やってはいけなかったの?』
『そんなことはないよ。お茶も口へ運ぼうか?』
ラナンは私の頬を撫で続けてて。
冷たい視線が後ろへ走った。・・・そこにはさっき、オーナー夫人が立っていたわ。
たとえ好意のない目線でも、彼女を見ないでって思ってしまう。
ラナンと居ると子どもみたいなことばかり考えちゃうわ。
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