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ネモフィラ様は、私を見るなり。
「何かいいことがございました?」
朝の挨拶も飛ばして、そう仰った。
「え?いえ。ええと!・・・そのう」
あわあわと不審な私を。
「まぁ。相当良いこと?」にまりとご覧になる。
そ、そんなに浮かれているのかしら、私。
ちらりと横を見るけど。ラナンってば!まったく助けてくれないんだもの。
いえ、それ以上よ!どうして一緒ににやにやしているの?!
プラタナス様まで、敵!になってしまわれて。
3人でかかって・・・すぐに、ウェディングドレスが家にあると。
白状させられてしまった。
「ゆぅっくりお話しましょ。絶対にラナン様抜きで!」
ネモフィラ様がそう仰るので、リムとの授業の日に。
ご招待をさせていただいた。
まさか、筆頭公爵家のご令嬢が我が家に来る日が来るなんて。
思ってもみなかったわ!
部屋に入るなり。
「プリンセスラインにレースをふんだんにあしらったドレス。
なのに・・・。可愛らしいというより気品にあふれた印象だわ!
しかもこれ。なんて緻密なレースなの!
縫い留められているのは、ビーズではなくてダイヤモンドですわね!!」
ネモフィラ様はドレスを褒めちぎってくださる。
「白は白でも卯の花色!同じ色のレースに同じ色の糸での刺繡。
清廉だわ!
いいですわねぇ!ルクリアさまのイメージにぴったり。
プラタナスさまも今日、一緒に来たいと仰っていたけど。まさか見せるわけにはいきませんものね!でも、たっぷり話して差し上げなくては!ふふふ。
・・・でもよく、ラナン様我慢なさったわね?
絶対自分の色だらけにして、独占欲をたっぷり出されてると疑っていたのよ?うふふふ」
もう恥ずかしくって。ほとんどお返事ができないわ。
「この隣に並んでるのは、ラナン様のよね?」
私には頷くことしかできなくて。
・・・ラナンが注文していた結婚式の服も出来たと言って。彼は私の部屋へそれを持ち込んでしまった。
もちろん彼の体形のトルソーに飾られていて。
まるでお店での見本のように格好いい。
ネモフィラ様はそちらも前から後ろからと眺められて。
「・・・悔しいけれど、よく考えられてるわ!
ルクリアさまの髪色の宮廷服。これはふたりで並び立つための服よ。
花嫁のドレスを引き立たせている!!同じ意匠の刺繍がまた素敵だわぁ。
でも・・・どうしてラナン様のお衣装もここに?」
「ネモフィラ様に見ていただきたいと・・・」言葉を濁す。
「いやだ!わたくしに自慢したかったのかしら?」
にこにことネモフィラ様は仰るけど。
本当はラナンが。離れていたら服が悲しむ。一緒にいたい。と訳のわからないことを言い出したのよ。
・・・とても言えないわ。
このふたつの衣装が並んでいると。すごくいろいろ想像してしまう。
大聖堂とか、一緒に並んで歩くところとか。
つい、惚うっとしてしまった私に。
ネモフィラ様はふふふふふ、と目を三日月になさった。
「式の日付もお決まりになったのね?」
ソファへ向かい合って座る。(すごく落ち着くお部屋だわ)とお気持ちを聞いてしまって。良かった、とほっとする。
ノーラがお茶を出してくれ、持参してくださったお菓子もそのままテーブルへ並べてくれた。
「はい、卒業式の翌日に決まりました」
当日にとラナンは言ったけど。大聖堂は空いていなかった。
父様は前日にしよう、と何度も仰ったけど。
前日は卒業パーティだもの。無理よね。
「わたくしもご招待くださる?」
!「よ、よろしいのですか?」嬉しいわ!
あ。「だけどその日は、夜会で・・・ネモフィラ様は出席なさるのではありませんか?」
卒業式の次の日。
貴族家の当主をすべて招待する大規模な夜会が、王宮で開催される。
その場で、王太子殿下の婚約発表をおこなうと噂になっていた。
だから、ラナンと私は式だけを身内で挙げることにして。その日の披露パーティは行わないことにしたの。
最初は、小さく開こうかと話していたんだけど。
辺境伯閣下も、ヘリコニアお祖父さまも参加できなくなってしまう・・・んじゃなくて。王宮からの招待のほうを断ると言い始められてしまったんだもの。
ふふ。困ったおじいさま方だわ。
結局、結婚披露のパーティは半年後に行う予定になった。
「夜会は遅い時間だもの。大丈夫よ」
ご婚約の件はあくまでも内定というだけだから。ご本人であっても発表のことは話題にお出来にはならない。それでも出席することを教えてくださった。そのご信頼がありがたいわ。
「大聖堂での式には必ず行くわ!ルクリアさまの幸せな顔を見たいもの」
嬉しい。すごく忙しい日になられるはずなのに!
「ありがとうございます!」
思わず大きな声になった私を。ネモフィラ様はくすくすとお笑いになった。
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