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ご友人。
こんな素敵な方が、私のご友人。
胸が震える。ネモフィラ様の寂し気な声も相まって、なんだか泣きたくなってしまった。
けれど。
私のほうへ振り向かれたネモフィラ様はまたも揶揄うような笑顔で。
「ラナン様は何と言って結婚式を早めさせたの?」
えええとそれは・・・お願いされた?
にやにやのネモフィラ様。
だめよ!これは、言うべきじゃないわ!
・
たくさんお話したはずなのに。全然足りないわ。
もう陽がかげってきている。
いくら王都とは言え、暗くなれば危険も増すもの。明るいうちにお帰りいただかなくてはならないのに、引き留めてしまいそう。
「まだまだ帰りたくないわ」
そうネモフィラ様も言ってくださって。
「では、我が家の養女になっていただけますか?」
ふふっ。前に仰った言葉を返す。
ネモフィラ様にはとても敵わないわ!
「あら、いいの?では早速子爵ご夫妻に。いえ、お父様とお母様にご挨拶を」と笑ってくださった。
玄関には、リムとラナンが。
「公爵家の馬車が帰る用意をしていたから」と待っていてくれて。
お別れのご挨拶に加わってくれた。
リムはとっても紳士で。自己紹介も完ぺきだったわ!
「こんな素敵な方にお目にかかったのは初めてよ」
ネモフィラ様は美しい返礼をしてくださった。・・・まぁ。リムの耳が赤くなったわ。表情には出さないようにしてるけど。ふふふ。
「どうぞファーストネームを呼んでね?」「リム、とお呼びください」
微笑んでリムは。
「ネモフィラお姉さま。魔法を使ってエスコートすることをお許しいただけますか?」と手を差し出す。
「もちろん」と言われたけど。ネモフィラ様は少し不思議そうにリムを見ていらっしゃる。今は手が繋げても、踏み台に乗られたら。リムの手は届かなくなってしまうはずだから。
リムはあの魔法を使う気だわ、きっと。
はじめてあった日にラナンが私を支えてくれたあの・・・。
思った通り。馬車へ乗り込むネモフィラ様を。手が離れてもしっかりとエスコートしたようだった。
「リムさまは素晴らしいのね!ありがとう」と感心した様ににっこりしてくださった。
馬車が見えなくなるまで手を振って。
私はにこっとラナンに向き直る。
「ラナン様?・・・リムが今使ったのは上級魔法よね?」
「・・・笑ってるけど、怒ってる?」
そんな甘えたように言っても、許さないわ!
「危ないことは教えないでってお願いしたでしょう?!」
私の手をなでなでし始める。だから!許さないったら!
「危ないことなど教えてないよ」悲しそうに見ないで!
「リムはまだ6歳なのよ?!」
私の剣幕にラナンは。助けてほしそうにリムを見る。『とてもそうは思えないほど優秀だけどね』
つられて見るけど。『それは嬉しいわ』リムはただにっこりとしてて。
「僕の魔法、上級魔法だったの?・・・少しコントロールがむつかしいなぁとは思ってたんだけど」
『知らなかったふり?え?待ってくれ!これ、俺だけ怒られるやつ!?』
ラナンの気持ちは面白かったし。小首を傾げたリムは可愛かったので。
・・・不問に付すことにしたわ。
でもこれ、リナーラに露見したら。ずるいって怒られそうだわね。
ラナンの部屋へ一緒に戻ったけど。
わざとつんとして、ソファにちょっとだけ離れて座ってみる。
『っ・・』
彼はいじけて距離を詰めるけど。・・・眉間にしわができているわ。
ふふっ。
しわを伸ばそうと、人差し指でなでてみる。『もう怒ってないわよ』
「良かった・・・お菓子を食べた?」
ラナンは私の手をつかむ。
「・・・匂いがついてる?」恥ずかしいわ。
「うん。バターのいい香りがする」
彼は私の手のひらに口付ける。
『いやだ、食べないでね』と笑うと。
ラナンは久しぶりに顔を両手で覆って小さく首を振った。
『た、食べないでね・・・もう一回言ってほしい』
珍しく何を言っているのか分かったけど。
聞こえなかったことにするわ。
「リム殿を。地魔法使いに一度、会わせてもいい?」
会わせる?
「子爵閣下にも、リム殿にも。了承はもらってる。
ルクリアの許可も欲しいんだ。君は心配性だから。
俺は地魔法は苦手な方だから。俺よりもっと良い師についたほうがいいと思うんだよ。けれど、どんなタイプの先生を探すべきか悩んでて。その助言をくれそうだから、会わせたいんだ」
彼の言葉は真摯で。リムのことを考えてくれている。
「ありがとう。だけど・・・どなたに会わせるの?」
「君も知っている人に」
・
数日後、私たちは3人であの魔方陣を使って。
辺境伯家へお邪魔した。
いつものように応接室にはしっかりと腰を抱かれたエビネ様。
リムのご挨拶はやっぱり完璧で。・・・だけど。またも耳を赤くしているわ。
リムは年上が好みなのかしら。
「エビネお姉様」
「あらあら、本当に紳士ね。そう呼んでもらえる年齢ではないわ」
「いいえ!お姉様です。・・・いや、女神です」
ハルジオン様の片眉が一瞬、上がって。どきりとする。
まさか、こんな小さな子にやきもちはないわよね?って思うけど・・・。ハルジオン様はどこか危ういのよね。小動物の雄ですら、エビネ様には近寄らせないそうだもの。
心配でラナンの手をぎゅっと握ってしまう。
でも。にこやかな表情へ戻られたわ!良かった!リムは排除されなかったみたい。
ほっと力が抜けると、ラナンは私を抱き寄せる。・・・もしかして何か勘違いをさせてしまったかしら。『いつもより離れているから、ルクリアは寂しくなったの?』
リムの前で頬に口付けるのはやめて!
ハルジオン様のお許しも得て。
リムは、時々。エビネ様に地魔法を習うことになった。
「様子を見て、一番似た使用法の先生を紹介するわ。地魔法はイメージの魔法だから、同じ考え方の先生につくほうがいいのよ」
辺境伯家の方々の魔法力はかなり凄い。もちろんそうでなくては、領地の魔の森は守れないのだけど。
「結局、姉妹弟で甘えてしまって」申し訳ないわ。
リナーラは今もおじいさまから魔法を習っているし。私も最近、ラナンから風の攻撃魔法を教えてもらっている。
「もっともっと甘えてほしいね」『俺が居ないと生きていけないくらいに』
ん?その言い方が危うい気がして。
ラナンももしかして・・・ハルジオン様みたいなところがあるのかしら?
いえ、まさかね。いつだって、ただ優しいだけだもの。
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