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5日目。試験最終日。
午前中の筆記試験を終えて。ひとりで家へ帰ってきた。
やるだけのことはやったわ。
お行儀悪く、どさりとソファに体を預ける。
試験は午前中が筆記の科目。午後が魔法の科目。
治癒魔法の試験は3日目だった。今日の午後は・・・地魔法の試験があっている。
今朝、教室に入ってきた彼は、運動用の服だったから。今日が魔法試験のはず。
まさか、ラナンが地魔法で試験を受けるとは思ってなかったわ。
一緒に帰れると思ってたのに・・・。
昼食後、お茶の用意をしてくれたノーラは。
「ラナン様が帰っていらしたら、まっすぐお嬢様の部屋へ来ていただきますわ」
と笑いながら出て行った。べ、別に彼を待ってなんかいないわ。
読書のために持ってきた本は、数ページ読んでは戻り、読んでは戻り。
文字を追うだけで内容が入ってきていない・・・。ラナンはそろそろ学校を出たかしら。
ぼんやりと窓の外へ顔を向けたとき。
ざわり。
急に不安になった。
居ても立っても居られない。なにがなんだかわからないまま・・・立ち上がる。
しゅるり。何かが自分から抜け出ていくような感じがして。
おろおろとまた座り込む。
思い出すのは・・・しろ?
「すまない。ルクリア。お前に母を与えてやりたかった」『いや、それ以前に。菫を助けたかった』あれは最初で最後の命令だった・・・。
・・・しろとの思い出?これはいつの?
真剣なしろ。瞳が哀しそうで。私まで辛かった。
そうだわ。・・・私は辛かったんだわ。私はまだ子どもで、しろを抱きしめたくなったあの気持ちが何かわからなかった。
まだ思い出せてないことがあったのね・・・。
とん。とん、と窓から音がして。まいき?と思う。
後から考えてみたら、嘴の音とは違う柔らかい音だったのに。
何も考えずに窓を開けた。
そこには猫?が居て。
なんて綺麗な瞳。マリーゴールド色と勿忘草色。オッドアイだわ。
(来たよ)
いきなり話しかけてきた彼は。
ゆったりと部屋に入ってきて、ゆっくりと部屋を眺めまわす。
え?
(僕だけど?覚えてないの?)
・・・だぁれ?
(僕。だあれ?名前はルクリアが決めてくれなくちゃ)
ブラッド。最初の言葉はそれだったけど。僕はちょっと嫌だな。
ほんのり桜色の猫。一色のその姿は、ちょっとしろみたいだわ。
(ルクリアが覚えてないなら無効でしょ。さぁ。僕を見て。名前はなぁに?)
あの花の色だわ。庭に1本だけあるあの木の。
ブロウ。満開の花がぶわりと思い出される。
・・・彼は喜んだ。『それいい!僕の毛色と同じ花だ』
ブロウ
言葉にした名前が光ったような感じがして。なにか。
なにかが。ブロウと繋がった・・・?繋がっていたのに気付いた?
その時!音を立てて扉が開かれ「ルクリア!」慌てた声の、父様?
父様はばっと走りこんできて。私をその背に隠した。
鞘から出してはいないものの、剣まで握っている。
「・・・え?・・・あまひょう?」
(あ、この匂い)ブロウはすぅと鼻を鳴らす。(結界張ってた魔力の匂いだ。勝手に入ってごめんね)
「ええと、勝手に入ったと謝っています」
父様ははぁと息を吐いて、警戒の体制を解く。侵入者だ、と急いできてくださったんだわ。
「やっぱりお前にも居たのか」
父様の呟きはどういう意味か、聞こうとしたんだけど。
廊下からは走ってくるラナンの足音がして。
窓からは、まいきの嘴の音がした。
・
父様は「どうせ二度聞きになる。あとで話を聞こう」と言うと部屋を出て行った。
その後、きちんと窓も扉も閉められて。ラナンの結界が部屋に張られる。
まいきはいつもの枕に気持ちよさそうに座って。私はその隣にラナンに抱きしめられるようにして座った。ブロウは私の膝の上に、でろーんと伸びている。
・・・これ、どういう状況?!
でも・・・。つい触ってしまったブロウのおなかはすごく懐かしい感触で。ふわふわと温かい。
『ええっと、まずね。助けてくれてありがとう』
私は、ブロウの言葉をラナンに伝える。まいきのほうは、読み取っているらしかった。・・・助けた?何の話だろう。
『母さん驚いてた。人間の魔力じゃないっていってた。私たちと似てるって。
ルクリアは魔獣なの?』
それを言われるのは2回目だわ。ラナンは私に人型の魔獣かと思ったって・・・。あ。
「あなた。あの時の幼獣リオナード?」
『今頃気付いたの?ルクリアって少しおばか?』
まぁ、なんて失礼な子なの!
チチッというような笑い声が聞こえたわ!まいき!
・・・あれ?そういえば、私の名前・・・。どうして知ってるの?
『おじいさんに教えてもらったよ』
浮かんだのはしろ!
「彼はどこにいるの?」
『森』
まいきは少しだけ身動きした。
『僕がここへ来れたのは。ルクリアのきずなが切れたからだよ。他の聖獣が守ってるのに、僕が来るのはいけないからね』
・・・それはつまりしろが・・・もう居ないということ?
ぽろりと涙が落ちる。
ラナンはぎゅっと腕に力を籠め。ブロウは起き上がってぺろっと頬を舐めた。ざらりとした感触は痛いのに、やっぱり懐かしい。
『大丈夫。
言ったでしょ?おじいさんは森にいる。僕たちはいなくならない。また話せるようになるまで時間がかかるだけ』
『そうか・・・』
納得するような声はまいき。
『あやつは・・・この雛が育つまでと頑張ったのじゃな』
誇らしげに。『最期までルクリアのために生きたのじゃ。悲しまず、褒めてやってくれ』まいきはそう伝えてくれる。
どこから聞こうかとしただけで。言葉を足して、教えてくれた。
『相棒に選ばれると。まだ雛のままであっても、その人間のもとへ飛ばされてしまうことがあるのじゃ。・・・あまり良いとは思わぬ。母親から学ぶべきことを学ばぬままに離れてしまうのだから。それをあやつはぎりぎりまで遅らせたのじゃろう』
しろ・・・。
『契約は済んだ。おじいさんの最期の言葉を伝えるよ。
すまない、ルクリア。わしはお前の母を助けられなかった』
ブロウの言葉で思い出す。あれは記憶を封じられた日。父様が迎えに来る少し前。まだ、しろが帰れないと知らなかった時。
「最初で最後の命令・・・?」
『あぁ、知っていたの?そうだよ。命令されたからおじいさんは相棒を救えなかった』
どういう意味?
『そのままの意味。僕たちは縛られる。僕ももう、ルクリアが望まないことはできない。命令されれば、逆らえない』
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