後期学期後期のルクリア

15/20
前へ
/291ページ
次へ
5日目。試験最終日。 午前中の筆記試験を終えて。ひとりで家へ帰ってきた。 やるだけのことはやったわ。 お行儀悪く、どさりとソファに体を預ける。 試験は午前中が筆記の科目。午後が魔法の科目。 治癒魔法の試験は3日目だった。今日の午後は・・・地魔法の試験があっている。 今朝、教室に入ってきた彼は、運動用の服だったから。今日が魔法試験のはず。 まさか、ラナンが地魔法で試験を受けるとは思ってなかったわ。 一緒に帰れると思ってたのに・・・。 昼食後、お茶の用意をしてくれたノーラは。 「ラナン様が帰っていらしたら、まっすぐお嬢様の部屋へ来ていただきますわ」 と笑いながら出て行った。べ、別に彼を待ってなんかいないわ。 読書のために持ってきた本は、数ページ読んでは戻り、読んでは戻り。 文字を追うだけで内容が入ってきていない・・・。ラナンはそろそろ学校を出たかしら。 ぼんやりと窓の外へ顔を向けたとき。 ざわり。 急に不安になった。 居ても立っても居られない。なにがなんだかわからないまま・・・立ち上がる。 しゅるり。何かが自分から抜け出ていくような感じがして。 おろおろとまた座り込む。 思い出すのは・・・しろ? 「すまない。ルクリア。お前に母を与えてやりたかった」『いや、それ以前に。菫を助けたかった』あれは最初で最後の命令だった・・・。 ・・・しろとの思い出?これはいつの? 真剣なしろ。瞳が哀しそうで。私まで辛かった。 そうだわ。・・・私は辛かったんだわ。私はまだ子どもで、しろを抱きしめたくなったあの気持ちが何かわからなかった。 まだ思い出せてないことがあったのね・・・。 とん。とん、と窓から音がして。まいき?と思う。 後から考えてみたら、嘴の音とは違う柔らかい音だったのに。 何も考えずに窓を開けた。 そこには猫?が居て。 なんて綺麗な瞳。マリーゴールド色と勿忘草色。オッドアイだわ。 (来たよ) いきなり話しかけてきた彼は。 ゆったりと部屋に入ってきて、ゆっくりと部屋を眺めまわす。 え? (僕だけど?覚えてないの?) ・・・だぁれ? (僕。だあれ?名前はルクリアが決めてくれなくちゃ) ブラッド。最初の言葉はそれだったけど。僕はちょっと嫌だな。 ほんのり桜色の猫。一色のその姿は、ちょっとしろみたいだわ。 (ルクリアが覚えてないなら無効でしょ。さぁ。僕を見て。名前はなぁに?) あの花の色だわ。庭に1本だけあるあの木の。 ブロウ。満開の花がぶわりと思い出される。 ・・・彼は喜んだ。『それいい!僕の毛色と同じ花だ』 ブロウ 言葉にした名前が光ったような感じがして。なにか。 なにかが。ブロウと繋がった・・・?繋がっていたのに気付いた? その時!音を立てて扉が開かれ「ルクリア!」慌てた声の、父様? 父様はばっと走りこんできて。私をその背に隠した。 鞘から出してはいないものの、剣まで握っている。 「・・・え?・・・あまひょう?」 (あ、この匂い)ブロウはすぅと鼻を鳴らす。(結界張ってた魔力の匂いだ。勝手に入ってごめんね) 「ええと、勝手に入ったと謝っています」 父様ははぁと息を吐いて、警戒の体制を解く。侵入者だ、と急いできてくださったんだわ。 「やっぱりお前にも居たのか」 父様の呟きはどういう意味か、聞こうとしたんだけど。 廊下からは走ってくるラナンの足音がして。 窓からは、まいきの嘴の音がした。   ・ 父様は「どうせ二度聞きになる。あとで話を聞こう」と言うと部屋を出て行った。 その後、きちんと窓も扉も閉められて。ラナンの結界が部屋に張られる。 まいきはいつもの枕に気持ちよさそうに座って。私はその隣にラナンに抱きしめられるようにして座った。ブロウは私の膝の上に、でろーんと伸びている。 ・・・これ、どういう状況?! でも・・・。つい触ってしまったブロウのおなかはすごく懐かしい感触で。ふわふわと温かい。 『ええっと、まずね。助けてくれてありがとう』 私は、ブロウの言葉をラナンに伝える。まいきのほうは、読み取っているらしかった。・・・助けた?何の話だろう。 『母さん驚いてた。人間の魔力じゃないっていってた。私たちと似てるって。 ルクリアは魔獣なの?』 それを言われるのは2回目だわ。ラナンは私に人型の魔獣かと思ったって・・・。あ。 「あなた。あの時の幼獣リオナード?」 『今頃気付いたの?ルクリアって少しおばか?』 まぁ、なんて失礼な子なの! チチッというような笑い声が聞こえたわ!まいき! ・・・あれ?そういえば、私の名前・・・。どうして知ってるの? 『おじいさんに教えてもらったよ』 浮かんだのはしろ! 「彼はどこにいるの?」 『森』 まいきは少しだけ身動きした。 『僕がここへ来れたのは。ルクリアのきずなが切れたからだよ。他の聖獣が守ってるのに、僕が来るのはいけないからね』 ・・・それはつまりしろが・・・もう居ないということ? ぽろりと涙が落ちる。 ラナンはぎゅっと腕に力を籠め。ブロウは起き上がってぺろっと頬を舐めた。ざらりとした感触は痛いのに、やっぱり懐かしい。 『大丈夫。 言ったでしょ?おじいさんは森にいる。僕たちはいなくならない。また話せるようになるまで時間がかかるだけ』 『そうか・・・』 納得するような声はまいき。 『あやつは・・・この雛が育つまでと頑張ったのじゃな』 誇らしげに。『最期までルクリアのために生きたのじゃ。悲しまず、褒めてやってくれ』まいきはそう伝えてくれる。 どこから聞こうかとしただけで。言葉を足して、教えてくれた。 『相棒に選ばれると。まだ雛のままであっても、その人間のもとへ飛ばされてしまうことがあるのじゃ。・・・あまり良いとは思わぬ。母親から学ぶべきことを学ばぬままに離れてしまうのだから。それをあやつはぎりぎりまで遅らせたのじゃろう』 しろ・・・。 『契約は済んだ。おじいさんの最期の言葉を伝えるよ。 すまない、ルクリア。わしはお前の母を助けられなかった』 ブロウの言葉で思い出す。あれは記憶を封じられた日。父様が迎えに来る少し前。まだ、しろが帰れないと知らなかった時。 「最初で最後の命令・・・?」 『あぁ、知っていたの?そうだよ。命令されたからおじいさんはを救えなかった』 どういう意味? 『そのままの意味。僕たちは縛られる。僕ももう、ルクリアが望まないことはできない。命令されれば、逆らえない』
/291ページ

最初のコメントを投稿しよう!

391人が本棚に入れています
本棚に追加