後期学期後期のルクリア

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命令・・・なんて嫌な言葉。 そう思うと同時に。 まいきから、ふっと息が。笑うような歌うような息が漏れる。 『ルクリア』私を呼ぶ声が優しい。伝わる気持ちも優しかった。 だけど、説明を始める声は静かで。 『このチビ助と繋がった以上、ルクリアは知っておくほうがよいじゃろう。 わしらと人との契約は、わしらには呪いなんじゃ・・・。 わしは芙蓉が好きだ。自分でそばにいる事を選んだ。 それでも。これがわしを縛る呪いだと知っていた・・・しろと違って』 しろと違って? 「しろは・・・知らなかったの?」 まいきのほうへ聞いたからか、ブロウは私の膝でくるりと体を丸めてしまう。 自分には関係ないとでもいうように。 『あやつは・・・しろは、人と契約をしたのは初めてだった。 あんなに長く生きて。あんなに人間を好いておったのに。 ルクリアが生まれるとき、母子ともに命の危険があったようじゃ。 しろは、いつもの調子で。「わしがいるから、安心しろ」と言ったそうじゃ。 しかし菫は・・・。 「ルクリアとしろのためだけに癒しの力を使え、菫自身に使うことは許さぬ」 と・・・命令した。 わしらは契約者の望まぬことはできない。契約者の言葉は絶対だ。 そのことを。菫はよく知っていて。 あやつは、知らなかった』 まいきの心にしろが浮かぶ。哀しそうに彼は話してる。 「契約は呪いだと、おぬしが言った意味を。あの時やっと理解した。 菫はわしが菫を治癒することを許さなかった。 赤ん坊のためにだけ使えと言われ。残った力を菫に回すことも出来なかった。 あの時、もし契約しておらず。 残りの力をすべて菫に使えたなら、わしの命と引き換えにしてでも菫を助けたのに。ルクリアに母親を与えてやれたのに。 菫は命令したことがなかった。それまで一度もだ! それで、わしはあの時まで。・・・契約が何をもたらすか、本当の意味では理解できていなかった」 『菫はしろを生かしたかったんだと、わしは思う』 ・・・まいき、私もそう思うわ。 しろが謝ることは何もない。 呪い・・・。本当に呪いだわ。 しろはあんなに哀しそうだった。 私こそ謝りたい。・・・会いたい! 会いたいのに・・・。 ラナンがハンカチで私の涙を拭き取ってくれた。 「しろは、知らなかった自分を責めていた。 その時。ほんの少し、言葉を選んでいたら、と。 命令さえさせなければ、君の母上を助けられたのに、と」 ・・・これは八つ当たりだ。わかっていても・・・ラナンに向かって怒ってしまった。 「あなたは、まだ私に隠し事をしていたのね!」『しろとの思い出はみんな教えてくれると言ったくせに!』 ラナンの腕から逃れようと身をよじる。 でも彼はびくともしない。私を腕の中に入れたまま。 「ごめんね。でもしろは、君の味方をどうしても増やしたかった。 先にこの話を聞いたら、君は契約をしないと思った」 あ。・・・ブロウ。 『んんん?呼んだ?僕、眠いんだけど』 膝の上の可愛い猫・・・は少しだけ目を開けて。すぐにまた閉じてしまう。 「もう、この子がいる。 だから、否定的な言葉を口にしたりしないよね。ルクリアは優しいから」 それは脅しなの!?とラナンを睨む。でも彼は哀しそうに私を見返した。 私とブロウはもう契約してしまった。 彼を縛るの?そんなの嫌だ。ブロウの好きなように生きさせ・・・。 考え自体を。まいきが止める。 『ルクリア!それはだめじゃ。 それもまた命令になってしまうのじゃ。 もしも、もしもこのチビが人を襲いたくなった時、好きなように襲う獣にしてしまう気か?』 まいきもラナンも、私を説得しようとしてる。 「しろは君といて楽しかったと言った。君の母との時間は幸せだったと言った。 ・・・この子は気持ちよさそうに眠ってる。 君のそばにいるのがきっと好きになる」 ぴたりと私に身を寄せてくるまいき。 『わしは芙蓉が好きじゃ。芙蓉も・・・』 まいきは、言いよどんだ。 『・・・わしを好きだと思うか?』 まぁ。・・・ふふふ。つい微笑んでしまった。 その羽にそっと手を触れてしまった。 『どうして今、すごく不安そうに聞いたの?まいき』 王妃様は絶対にあなたが大好きだわ。 照れたまいきは、暗くなる前に帰らねば。と焦りだした。 ソファへ、眠ってるブロウをそっとおろし。見送ろうと窓へ移動する。 「来てくれてありがとう。まいき。やっぱり何か・・・感じたの?」 しろのことを。 『そうじゃな。不思議じゃが、なんだか気持ちがざわざわとして。 ルクリアに会わなければと思った。 ・・・ルクリア?・・・そのう。 契約者が死ねば、わしらは自由になれる。その命令も継続はされない。 つまりしろは、自分の意志でお前のそばに残った』 その言葉は私を包んでくれる。「・・・ありがとう」 まいきが、見えなくなるまで空を見上げて。 ソファへもどると。ブロウはいつの間にか、まいきの枕に丸まっていた。 眩しかったのか、頭を押さえ込んでしまって。顎を見せてる。ふふ。牙がほんの少し出ているわ。 そっと撫でると温かくって・・・。なんだか、泣きたくなった・・・。
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