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ブロウの背中をするりするりと撫で続ける。
滑らかな手触り。
しろの・・・おなかの毛みたい。
私がおなかを触る事を。しろは”いたずら”だと決めつけた。”やってはいけない事だ”と言った。
でも実は気持ちがいいらしくって。
『仕方ない。ルクリアにいたずらさせてやろう』と言ってはおなかを撫でさせてくれた。毛並みに逆らってわしゃわしゃすると文句を言われたっけ。最後はいつも、やっぱりルクリアはいたずらしかしない、って笑ってた。
ブロウの隣へ座りこむと、しろがここにすっと座ったことも思い出す。
背筋を伸ばすかのように、前足をまっすぐに伸ばして。そこに長い尻尾をくるりと巻き付けた。
『お前が困ったとき。辛いとき。必ずそばにいるから』
あの時、しろはすごく哀しそうだったわ。あれはいつ?
触れられるという意味でなら、それが無理だと。寿命が近いのだと。もう知っていたのかもしれないわ。
だから。
約束を守ろうとしてくれたんでしょう?
ブロウという形で。ラナンという形で。
だけど・・・。
ラナンはまたも私に隠し事をしていた。
ブロウと私の契約を結ばせるために。
それが引っかかって。そこへ考えは引き摺られて。
まだ他にも、ラナンは頼まれている事があるの?
・・・しろに頼まれたから、私のそばに居るの?
考えは嫌なところへ着地してしまう。
しろとの約束を果たすために・・・仕方なく私と居るの?
ラナンは。
後ろから何も言わずに私を抱え上げ、自分の膝の上に乗せた。
びっくりした!「し、失礼だわ」
見上げるとむすっとした顔?
「信用しないのなら、俺とも魔法契約を結ぼうか」
声も怒っていて。
「どういう契約がいい?毎日愛をささやくこと?毎日口付けること?
他の女性を見たら苦痛に苦しむとか、他の女性と話せなくなるとかのほうがいいかな」
『私をばかにしているのね!私だって怒っているのよ!』
ラナンは『俺のほうが怒ってる』と横を向いた。
『試験期間中の私語は禁止といってもね、婚約者同士は甘く見られてるんだよ?
試験に関係のない話なら、ちょっと注意を受ける程度だ。
なのに。君に近づくことも許してくれないなんて、あんまりだ。
この数日俺がどんな思いをしていたか!・・・そのうえ!
やっと君を抱きしめられると思って来てみたら、玄関に迎えにも来てくれなかった』
はぁぁぁってため息。
「俺をびっくりさせようと隠れているんじゃないかと、玄関をきょろきょろして。ルクリアが居ないとわかって・・・」
そこまで言ってぐっとラナンは口を閉じる。頬を赤くする。・・・言い過ぎたって心でだけ呟いてる。
すごくがっかりしたんだって伝わってきて。
胸があったかくなる。頬が緩む。
私が笑うから、ラナンはもっと顔を赤くする。・・・ふふっ。
「そんな事を言うんだったら・・・どうして地魔法の試験を受けたの?」
そうじゃなかったら、一緒に帰ってこれたのに。
ラナンはやっと私を見てくれた。
ふふって笑って。
「そうか。そんなに俺と一緒に帰りたかったのか」
その顔嫌いだってば!
「べ、別に!」
くすくすとラナンが笑い出すから、すごく怒った顔をして見せたのに!
・・・ラナンは私の背中をなで始める。言い訳をし始める。
「リム殿と地魔法を鍛錬してるでしょ?初級魔法もいくつか覚えた。
それが良かったらしくてね。俺なりの使い方が分かったというか・・・。
うまく言えないんだけど。
地魔法の行使に、かなり自信がついたんだ。そうなると試してみたくて。
ふふっ。今回の試験一位は俺かもしれないよ」
いつもの笑い顔。
もう怒ってない?
そっと頬へ手を伸ばすと。上からぎゅっと握ってくれて。
「・・・ひどいわ!手を抜いてくれても良かったのに」そう笑い返す。
「本当にそんなことしたら、怒るくせに」
ラナンは、ちゅ。と音を立てて、額に口付けてくれた。
・・・ラナンの香り。温もり。心臓の音。鍛えられた体。
悔しいけど、ぎゅっと抱き着いてしまう。
「もう・・・大丈夫だね?」
言いながら彼は私の頭をなでる。
『胡麻化したわね?』ってわざと言う。
ラナンはぎゅっと抱きしめてくれるから。
「試験の間、話せなくて・・・寂しかったわ」正直に伝えてしまう。
でもね。毎日必ず聞こえた。(好きだよ)って。
「好きだよ」
あぁ、嫌だ。たったそれだけ。それを聞くだけで、私は落ち着くんだわ。
「・・・あなたのせいじゃないと、しろに言ってあげたかったわ」
だって私のせいだもの。・・・なにもかも私のせい。
私さえ居なければ。その言葉はまた、私を苛める。
小さいころからずっとそう。私は居てはいけない場所にいる気がする。
「君が居る場所はここだ。『俺の腕の中』
何があろうと絶対に。俺がいる。ずっとそばにいるからね」
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