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くぅと小さくもはっきりとした寝息が聞こえて。
思わず、ふたりして声のほうを見て微笑んでしまう。
ブロウはすっかり熟睡してて。
陽は、かげってきたと思うんだけど。まだ眩しいのか、両手・・・両前足でしっかり目のところを抱え込んでる。
・・・寒くはないかしら。タオルをかけてあげようかしら。
なんだか。リナーラやリムが、赤ちゃんの頃を思い出してしまうわ。
「毛皮を着ているからね。寒くはないと思う」
ラナンは私の顔を覗き込んでいる。
『そんなに表情を読みやすい?』
「ふふっ。隠す気があるのかを聞きたいくらいにね。
・・・君は甘すぎる母親になりそうだね。辺境伯領は危険な土地だ。
厳しく育ててくれないと困るよ」
「まぁ。父親が厳しくする気なら、私が少しくらい甘くてもいいと思うわ」
私の言葉に。ラナンは口元をさっと隠す。
「俺が厳しいなら、母親は少しくらい甘くていい?」
「ええ、そうよ」どうして同じことを繰り返して言ったの?
ラナンはにやっとして。頭へ。額へ。頬へと口付けてくる。
「ちょ、ちょっと!やめて!」手を挙げてやめさせようとしたら、今度は掌にまで口付ける。
『父親は俺で。母親はルクリアで』
・・・わざわざ確認された意味が、ゆっくり頭に入ってきて。
絶対に赤くなってる私を。ラナンはにやにやして見ていた。
・
「父様のところに行かなくてはならなかったわ。お夕食の前に行っておきたいけど。・・・起こしてもいいかしら?」
とうとうおなかを出して寝入っているブロウに呆れながら。ラナンに言葉をかける。
「そう・・・だね。うん、その」
?
ラナンは、なんだかそわそわし始めて。
「どうしたの?」
「いや、その・・・。
起こすんだったら、お願いがあるというか。
この子はリオナードだよね?
その、本当の姿を見てみたいっていうか・・・」
そういえば、ラナンはリオナードが好きなんだったわね。
私も見たい気はする。
今は、体の大きな・・・。多分毛がふわふわのせいなんだけど、若いわりに大きめの猫。といった感じだけど・・・。
私たちがじっと視線を注いだからか。
ん?って目を開けたブロウは。
飛び上がるように身を起こした。
びっくりさせちゃった?ごめ・・・ん?
目の焦点が合ってない?
ブロウはどうやら寝ぼけてるみたい。
よたよたと私の膝に登り出すから。ふふ。お尻を抱き込んで手助けする。
彼は膝の上で丸まろうとしたんだけど・・・。
『んんん?殺気?』
そう呟いてラナンのほうを見上げた。
真正面から見つめられたラナンは。
「オッドアイ!・・・なんて綺麗な!」
胸に手を当てた。
初めて食事した時のあの表情だわ。なんていうか、恍惚とした?そんな顔。
『もしかして、こいつ。あの時居た奴?』
ブロウの言葉を伝えると。
「覚えててくれた!」って感激してるラナン。
『母さんが怒ってたもん。こいつのせいで、僕死にかけたんでしょ?』
・・・あー。
そ、そうでもなかったのよ?許してあげてくれたら・・・嬉しいわ?
『うん・・・まあ。嫌な感じはしない奴だから。いいよ。やきもち焼きだけどね』
会話を今度は伝えなかったので。ラナンは期待に満ちた目で見てる。
「名前は何と仰るのかな?」
「あぁ、ブロウ、よ」
「ブロウ様!いい名前だ!」
『うえええええ。
ブロウでいいって言ってよ。ラナンって僕も呼んでやるからさ』
ラナンはそれでまた感激して天、井を仰いでいた。
父様に会ってほしいんだけど、その前にブロウの本当の姿が見てみたいと聞く。ブロウは部屋をぐるりと見まわして。『いいよ』と膝から飛び降りる。
(この広さなら、ぴったりくらい)
ぶるり、と震えると。伸びをするついでのように大きくなっていく。
しろほどの大きさはない。
尻尾を除くと、寝室との間の壁とほぼ同じ体長。
この部屋の天井とほぼ同じ体高。
宝石のように輝く瞳は、小さい時と変わらない色あい。
しろよりずっと、きりりと目じりが上がってる。
まるでにやりとしたように口元は結ばれていて。猫の時と変わらず、やんちゃそうな表情だわ。
二等辺三角形のような長い耳は先がくるんと丸まっていた。
本当のブロウも可愛いわ。私がそう伝えようとした時。
「おおおお。しなやかな体!美しい毛並み!
こんなに近くで会えたのは、しろ以外初めてだ!」
ラナンは感極まって叫んでた。
いつの間にか、私たちは立ち上がっていたんだけど。
彼は両ひざをついて。まるで祈ってるみたいな格好になってる・・・。
(ねぇルクリア?・・・ラナンてちょっと怖いんだけど)
ええ!私も今!同じことを思っていたわ!
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