プロローグ

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2051年6月1日 「それでは! ライト君の誕生日を祝して!」 手に持ったグラスを高く掲げながらのルナの音頭に続いて、七人分の「乾杯」という声が響く。 打ち付けあったグラスに満たされた飴色の液体が衝撃に溢れ、キラキラと室内灯を反射しながら黄金色の飛沫が空中に舞った。 「ライト君。改めて、誕生日おめでとう!」 「うん、ありがとう。みんなもこんなパーティー開いてくれてありがとう」 「これでアンタも私と同い年ね。来月までならタメ口で話してもいいのよ?」 「お忙しいのにわざわざ僕の誕生日なんかの為にお時間をいただきありがとうございますシャインさん」 「やっぱりやめなさい。思ったより心が痛かったわ」 わざとらしく胸を押さえながら「うへぇ」と舌を出すセブンに、一連のやり取りを眺めていたメンバー達から笑いが漏れる。 そんないつも通りの茶番を繰り広げつつ、ルナとマリアさんの料理スキルマスター達謹製の料理を取り皿に取り、舌鼓を打つ。 普段であればちょっと手を伸ばすには尻込みしてしまうくらいには高ランクの食材達を惜しげもなく使った料理達は食材そのものの味を活かしつつ、味付けも俺の好みに整えられており、シェフ二人のスキルに依らない料理技術の高さをこれでもかと感じられた。 「そういえば風香さんは? ライトさんの誕生日となれば誰よりも張り切りそうなものですけど」 「ああ、姉さんは「明日は美月ちゃん達がお祝いしてくれるだろうから、今日は私のターン!」って言って昨日前倒しで祝いをしてくれましたよ」 朝起きたら部屋に人間一人易々と入りそうなプレゼントボックスが置いてあった時は流石に悲鳴を上げそうになったし、中に入っていた裸に赤いリボンを巻いた姉さんに押し倒されかけた以外は概ね平穏な方のお祝いだったと思う。 本命のプレゼントは去年貰ったネックレスと同じブランドのネクタイピンとかなりまともなものだったし、ケーキも流石に自作は譲れなかったようだが一昨年までみたいにウェディングケーキサイズではなく普通に二人で食べ切れる量だった。 「平穏すぎて寝るまで逆に気が抜けなかったですね」 「ライトさんの感覚も大概麻痺してますよね」 「それでも一般的な高校生の弟に大学生の姉がする誕生日祝いの熱量じゃないのよねぇ」 「今日はいつも通りでしたよ。祝い事と平時のメリハリはキッチリつけるべしがウチの家訓らしいので」 姉さん風に言うのであれば、今日は「ルナ達のターン」ということなのであろう。 姉弟の距離感は壊れているものの、そういった俺の周りにいる人達の為の気遣いもしてくれるあたり本当にいい姉だと思う。
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