《173》

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 深夜になり、忠勝は草の上に寝転がり、眼を閉じた。深く眠りはしない。微睡むだけだ。それで体の疲労はかなりの部分取れる。若い頃からいくさ場ではずっとそういう休み方をしてきた。今夜は微睡みもままならなくなっていた。己を求める気配が強くなっている。忠勝は身を起こした。黒疾風の半分は眠らず、歩哨に立っている。空が蒼みがかっていた。あと一刻ほどで夜が明けるだろう。  傍らの蜻蛉切を見た。刃身の輝きが増している。声が聞こえた。弾かれるように忠勝は立ち上がった。蜻蛉切を持ち、馬に跳び乗る。 「立花山城を見てくる」 誰にともなく、言った。衝動があった。呼んでいる。何がとは考えなかった。忠勝は林から出た。 「兄貴殿、お待ちを」 叫びながら、梶原忠が馬を並べてきた。 「俺も行きます」 「見てくるだけだと言っているだろう」 忠勝は苦笑した。東の空が薄く赤らんでいる。 「何か感じるものがあったのでしょう。事と次第によれば、兄貴殿は無茶をやります」  忠勝は声をあげて笑った。忠とはもう25年の付き合いになる。一つ年下の、弟のようなこの男はさすがによくわかっていた。  微かに潮の匂いが漂ってくる。立花山城に近づくにつれ、それは濃くなった。立花山の稜線が見える位置まで来ると、はっきりと潮騒が聞こえてきた。  丘稜地帯があった。丘の一つに忠勝は登った。立花山の麓、大軍が囲んでいた。黒地に白字の十を丸が囲む様が描かれた旗、島津の旗だ。忠勝は立花山城を見た。土塁を高くしているわけでもない。物見櫓に狙撃兵を配置しているわけでもない。静かだ。ただ城が放つ気迫はあった。少しでも触れれば、強烈な返しをする。立花山城の威容からはそんな雰囲気が漂っていた。
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