《174》

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 小さな水滴が二粒三粒、宗茂の頬を濡らした。それはすぐに、激流ような大雨に変わる。銃声が止んでいる。宗茂は立花山の周囲に眼をやった。島津軍の攻囲、靄(モヤ)がかかっている。火縄の着火がすべて消え、鉄砲が白煙を上げているのだ。  強風に煽られた横殴りの雨だった。風神と異名をとった父、高橋紹運の姿が宗茂の脳裏に過る。この風は父が起こした。そうとしか思えなかった。強風が雨雲を呼び込み、島津軍の銃撃を止めたのだ。  腹に響いてくる音があった。鉄砲のものではない轟音。黒雲の間が光った。辺りがばっと白くなる。物見櫓が激しく揺れた。島津軍の攻囲、一部が弾け跳んだ。轟音、連続した、攻囲、また違う場所が弾ける。雲の中に居るかのように、周囲の靄が濃くなっていた。立花山の麓で怒号が飛び交っている。焦げ臭い匂いが漂う。落雷。雷が連続して落ち、島津軍に直撃したようだ。  今度は雷神と異名をとった義父、戸次道雪を思い浮かべた。なんという父達か。死してなお、戦い続けている。いくさ人の真の魂を見た。宗茂は心底愉快な気分になった。戦局を一気にひっくり返す機はここしかない。宗茂は決断した。 「誾千代、城の留守を頼む。俺はこれより、兵2千を率いて、撃って出る。岩屋、宝満、奪われた城を取り返すのは、今ぞ」  胸が熱かった。風の音、雷、鳴り続けている。父達の叱咤激励。宗茂にはそう聞こえた。梯子を降りた。秀吉軍の第一陣が渡海し、豊後に入った。黒田官兵衛が総大将で率いているのはほとんどが毛利の兵との事。総勢、2万。更に四国から長曽我部元親率いる1万5千も間も無く豊後に入るとの事。そんな報告を歩きながら聞いた。  右に由布惟信、左に高野大膳がそれぞれ付き、歩いた。背後からは2千の立花兵がついてくる。
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