《174》

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 樹が斬り倒され、拓けた場所、すでに馬は用意されていた。宗茂は馬に跳び乗った。 「敵の数はいまだ10倍近いが、恐れるな。豊臣の第一陣はすでに渡海してきている。間も無く、関白率いる本隊も九州入りし、戦いに参加してくれるだろう」 宗茂は麓に馬首を向けた。 「必ず、勝てる。我らには風神と雷神が付いているぞ」  鯨波が起きた。樹々が揺れる。周囲にはまだ、落雷の残響が拡がっていた。山の斜面を駆けた。騎馬は宗茂を含め、4騎、2千のほとんどは徒だった。焦げた匂いが濃さを増す。平地に出た。噎せ返りそうになるほどの白煙が視界を覆う。ある位置まで来ると敵兵の、あっ、と眼を剥く顔が見えた。宗茂は黒切を真横に一閃させた。白の中に赤い血飛沫が飛び散った。 「敵襲、敵襲」「立花軍が出てきたぞ」 慌てふためく声が飛び交う。白煙の中から突如として立花軍が現れたのだ。敵にしてみれば、驚愕の極みだろう。宗茂は一枚ずつ衣を剥がすように、攻囲の中を進んだ。宗茂の周囲、島津の徒が次々と中空に舞い上がる。黒切は遣うほどにその鋭さを増している。すでに宗茂の腕の一部となりつつある。  眼前に、濡れた叢が拡がる。島津の人壁を突破した。駆けた。 「敵は大混乱」 言いながら、惟信が並走してきた。 「同士討ちまで起きている始末」 「島津とは、こんなに脆いのか」 「まごう事なき名門でございます」 「それにしては手応えが無いな」 「貴方様の武勇が凄まじ過ぎるのです」  味方の徒の足音と雨音が入り交じる。宝満山城に向かって駆けていた。追いすがってくる敵があった。宗茂は馬脚を落とし、殿軍に下がった。
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