《174》

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 味方の悲鳴が宗茂を我に返らせる。本多忠勝の周り。竜巻が起きたかのように、次々と味方の徒が中空に舞い上がっている。槍衾の中で黒い騎馬隊が暴れ回る。一騎一騎の動きが鋭かった。巧みに突き立てられた穂先がかわされる。両側から槍衾が突き崩されていく。たった3百だ。こちらは2千いる。それでもこの3百は先ほど相手にしていた島津の3万以上に圧力があった。由布惟信が本多忠勝に打ち掛かるのが見えた。高野大膳も本多忠勝に向かって行っている。本多忠勝の馬脚が止まった。 「下知を飛ばしなされ」 惟信が叫んだ。 「瓦解寸前ですぞ。この状況を打破できるのは、宗茂殿、貴方だけですぞ」  宗茂は左右に眼を巡らせた。徒が拡がり、所々槍衾に窪みが生じている。 「動くな」 宗茂は音声を放った。 「拡がらず、立っている場所で馬上を突くのだ。騎馬の動きに合わせるな」  宗茂の声で味方は落ち着きを取り戻したのか、無駄な動きが減り、槍衾の間隙が少しずつ消えていく。2騎、3騎と、動きを食い止められている騎馬が出始めた。宗茂は止まった騎馬に突進し、突き落とした。本多忠勝に馬首を向けた。惟信と大膳の背中に遮られ、忠勝の姿は見えない。馬を進めようとすると、前方を遮ってくる騎馬があった。 「黒疾風副将、梶原忠」 騎馬が名乗った。 「立花宗茂、覚悟」  槍が迫る。受けずに、宗茂は横に馬を動かした。風が身を打つ。殺気。別の方向から槍が来た。 「黒疾風特攻隊長、都筑秀綱見参」 骨格のしっかりとした男だった。右から梶原忠、左から都筑秀綱の槍が宗茂に襲いかかる。宗茂は虚空に小さな弧を描くように、黒切遣った。手応えが二つにあった。胴丸から欠片を飛ばしながら、黒い騎馬隊の両将が落馬した。 「勇気を奮い立たせろ」 音声を放ち、宗茂は黒い騎兵を4騎、ほぼ同時に突き落とした。 「数はこちらの方が圧倒的に多い。動きに翻弄さえされなければ、負けはせぬ。お前たちは立花宗茂と共に戦っているのだ」
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