《174》

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 兵、一人一人の腰がどっしりとしてきたと宗茂は感じた。分厚い壁にぶち当たったかのように、崩れ落ちる騎馬が目立ち始めた。宗茂は敵を突き、叩き落としながら馬を進めていく。 「立花宗茂を止めろ」 地から、梶原忠の声が響いてくる。 「兄貴殿に近づけさせるな」  騎馬が宗茂だけに集中してきた。薄暗い中、黒切の柄が白く発光する。宗茂が黒切を横に一閃させると、騎兵が二つ、馬ごと飛んだ。視界が開ける。本多忠勝。三度駆ければ届く位置に居る。宗茂は黒切を振った。周囲、4騎が落ちた。忠勝と眼が合っている。宗茂には忠勝しか見えていなかった。それはあちらも同じなのだろう。惟信と大膳を同時に相手にしながら、忠勝は二人を一切見ていない。宗茂だけを見ている。それでも忠勝は二人の槍を児戯が如く、いなし続けている。 “とんでもないな”。宗茂は内心で忠勝に語りかけた。“互いにな”。忠勝が応える。馬腹を蹴った。この男と思う存分槍をぶつけ合いたい。衝動はもう、抑えられなかった。忠勝が槍の柄を大膳の腹に当てた。返す槍が惟信を襲う。惟信は己の槍を捨てて、両腕で忠勝の槍の柄を抱き止めた。惟信が落馬した。それでも、忠勝の槍は離さなかった。 「なりませぬ」 惟信の声が雨音と交錯する。宗茂は手綱を引き、馬を止めた。 「一騎討ちをしてはなりませぬ」  忠勝が槍を引こうとする。惟信は地に引きずられるような格好になっている。  立花軍の徒がじりじりと、忠勝に迫ろうとするのを騎馬隊が遮っている。惟信の太股に血が滴り落ちているのが見えた。腹からだ。深いのか、壊れた胴丸の下に刺創ができている。「惟信殿」宗茂が叫んだ時、徒立ちの大膳が忠勝に突き掛かった。
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