友達のなくし方

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 部活のとき坂ダッシュしてる飯尾の横顔が最高にかっこよすぎて、キュンキュンしてる自分がいた。けど部活だからちゃんと平然を装いつつも内心ではキャーキャー言ってた。  同級生で同じ陸部の飯尾は頭も良くて陸上の成績も良くて、しかも顔がジャニーズ系だからめちゃくちゃモテるのに、全然彼女作ることに興味なんかなさそうで、いつでも陸上のことしか見えていないような天然キャラも入っていて、そこが魅力的なところでもあった。  ある日飯尾に突然言われた。しかも真顔で。 「オレさずっと思ってたんだけど、青野800とか走ってみたら?」 「え? 800? 無理無理無理。絶対無理!」 ――ずっと思ってた? 私のこと?  そしてなんと次の日から、部活の時間外で800の特訓までしてくれることになったのだ。  漫画みたいな展開だなって思って、ひとりでニヤついてた。 「週末はどうする?」 「え?」  まるで、デートに誘われたみたいでドキドキした。 「だって、飯尾塾あるんでしょ?」 「『今週は用事があるから休みます』って、塾の先生に言ったから大丈夫」  と飯尾は笑顔で言った。 ーー塾よりも私を、じゃなくて私の800の練習を優先してれたってこと?  そこに深い意味があるの?ーーとは聞けなかった。  そして週末、雨雲が行ったり来たりした灰色の空が見事に晴れ上がった。 「嘘みたい……」  早く起きてしまった私は自宅の窓から空を見上げてつぶやいた。 ーー飯尾晴れ男だな。  私は眩しく輝きだした太陽を見上げた。それからジャムをスプーンでひとさじすくって塗った食パンを速攻で食べて、ドライヤーを念入りにして身支度を整えた。  お母さんは居酒屋みたいな食堂で夜のバイトも掛け持ちしていたから、隣の部屋でまだ寝ていたけれど、嬉しくて思わず大きな声で私は、 「行って来まーす!」と言って家を出た。  毎日通っている学校だというのに、いつもとは何か違った感じがした。球場の方から野球部の声が聞こえるるくらいで、グラウンドには私と飯尾2人の姿しかなかった。  緊張し過ぎて早く学校に着いたのに、飯尾は私よりも更に早く来ていて、早速アップシューズの紐をきっちり縛っているところだった。 ーー飯尾、早っ。 「おはよう」  私たちは同時に挨拶をした。 「あのさ」  飯尾が靴紐から視線を上げて私を見た。  口角を上げて笑う飯尾の笑顔は、さわやか過ぎてズルい。 「何?」 「青野ってもしかして、晴れ女?」 「てかさ、私も同じこと思ってた。飯尾は晴れ男だって」  それから軽く準備運動をして早速走ることになった。  スタートラインに立ち飯尾の方を見ると、スマホを片手に持ってこちらに向かって手を振ってくれた。 「全力で走らなくていいからね。じゃないと最後ばてちゃうから」  私は大きくうなずいて見せると飯尾も同じくうなずいて、スタートの合図を送ってくれた。  全力じゃなくていいよと言われたのに私は勢いよく走ってしまった。そのせいで第3コーナーに差し掛かると苦しくて苦しくて、もう絶対無理って思った。必死にカーブを抜けて残り100mをゴールに向かって真っすぐ走り出した時だった。 「ここからだぞ青野! 自分に負けんな!」  飯尾が大声でそう叫んだ。 「青野、ラスト、ラストー!」  全力で走っているのに足が前に上手く運ばなくて、今にももつれそうだったけれど、私は疲れた腕を大きく振り最後の力を振り絞ってゴールした。 「いいよタイム! めちゃくちゃいい。マジめっちゃいい」  こっちは死にそうな顔してるから絶対に見られたくないのに、倒れ込んだ私を真上からのぞき込んで喜んでいた。 「すげー青野」  すっごく嬉しかったのに苦しすぎてそれどころではなかった――っていう、最高で最低の思い出の日だった。  
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