友達のなくし方

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   ペース配分がムズイってイメージあったし本当は絶対やりたくないって思った種目だったのに、すごく嬉しくなってひとりで勝手に舞い上がった。  無謀にも記録会で挑戦したら、決勝まで残っちゃって飯尾がハイタッチで喜んでくれたから、そのときは陸上の神様っているんだって本気で思った。 「やったじゃん! 初めてなのに決勝に残るなんて、すげーよ」    おもいきりの力でハイタッチした手のひらがジンジンして痛かったけど、それは嬉しい痛みだった。 「ありがとう」 「真面目に、今年800で入賞狙ってみない?」 「入賞は無理でしょ」  半分笑いながら私は言った。 「今でこのタイムなら絶対行けるって。入賞はできると思うよ」 「ホントに?」 「ホントに。全中目指せるレベルな気がする」 「飯尾さ、それは言い過ぎだよ」 「ぜんぜん言い過ぎじゃないよ」    飯尾の顔はいつも通り笑っていたけれど、こちらを見る眼差しに顧問の先生よりも熱いものを感じた。だから余計に頑張らなくちゃって思えた。  飯尾の言葉は魔法だった。本気で全中狙ってやろうってまで思えたのだから。  陸上やってた中でそれが一番嬉しかった瞬間だったかもしれない。  それからの部活はめちゃくちゃ頑張った。  不思議だけど走るたびに記録が伸びていったから気合も入るし、練習だって少しもダラダラしなかった。しなかったっていうか、それだけ気持ちが集中してたんだと思う。 「持ってるねぇ青野。これはいけるぞ。種目変更だな」 「変更までいかないですけど……頑張ってみます!」  顧問までおだてるから、恥ずかしいけどその気になってしまった。 「七海すごいんだけど」 「才能開花してんじゃん! 飯尾のおかげで」  マヤとゆこりんに冷やかされたけど、本当に嬉しかった。  でもそれが逆効果になってしまった。頑張りすぎたせいなのか気がついたらスパイクに穴が開いていたのだ。お母さんに買ってほしいって言えるはずがなかった。きっと他の家の子だったら「スパイク破けたから買って」って言えるのだろう。  小さなほころびだったはずのスパイクをじっと見つめながら、胸の中でつぶやいた。 ――うちにスパイク買う余裕なんてないよ……。  私はそれから走る気力がなくなってしまって、頑張ろうと思っても元気が出てこなかった。   「今日……お腹が痛くて部活休みます」  ぜんぜんお腹は痛くなかった。  そんな破けたスパイクを飯尾に見られるのが死ぬほど恥ずかしくて、嘘ついて部活をちょっと休もうと思っただけだった。それなのに私はその日から嘘つきの常習犯になっていった。  色んな意味で情けなくて、すべてに対して嫌気がさした。 ――せっかくここまで来たのに……。  その夜は布団の中で悔しくて泣いてしまった。  でもお母さんにこれ以上心配事を増やしてはいけないと思ったから、静かに泣いた。声を出さずに。そっと目を閉じると目の端っこから勢いよく涙が流れて落ちた。  その頃からお母さんの体調も、様子も、変になった。  
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