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「みんな、今日は当店『保護猫カフェ にゃりんこ』初の街コンだよ。みんなも協力してね」
「ニャー」
「これから十人のお客様が来るから、よろしく頼むよ」
「ニャー」
店長がドアを開けた。バタバタと靴音がする。
「皆様、本日は『にゃりんこ』主催の街コンにご参加ありがとうございます。こちらの飲み物とお菓子はセルフでどうぞ。ではお楽しみくださいませ」
参加者は少し硬い面持ちだったが、猫を目にすると、たちまち顔がほころんだ。
「いろんな猫がいるなー」
「あっ、子猫だ」
「カゴの中に2匹は狭そう」
少しガヤガヤしてきた。
「あら、クロちゃん、かわいい」
女性が黒猫のところにやってきた。
「ニャオウ」
(僕の名前はクロちゃんじゃないぞ。僕はマックスだ)
「こっちにおいで」とその女性はマックスを持ち上げた。
(くんくん、この匂い、嗅いだことない。新参者だな)
「思ったより重いわね。さあ、膝の上に乗って」
(本当は嫌だけど、今日は特別な日だから仕方ない)
「クロちゃんていうの?」
男性が近づいてきた。
「あ、いや違います」
マックスは、ピョンと膝から降りた。
「あっ、行っちゃた」
(さて、どこに行こうかな。あれは常連さんだ。確か名前は、えっと、フミちゃんだったな)
「ニャー」
「あ、マックス」
「ニャン」
(今日は一人なのかな?)
「良かったー、マックスが来てくれて。友達が来れなくなって、少し心細かったのよ」
「ニャーン」
「あのテーブルで一休みしよっか」
「ニャン」
「黒猫かわいいね。僕、黒猫が好きなんだ」
男性が近づいてきた。先ほどの男性とは違う。
「私も黒猫大好き。この子、マックスっていうんです。一歳ぐらいの男の子」
「へー。マックス。かっこいい名前。向かいの席、いいですか? あ、僕は小林昌己と申します」
「どうぞ。私、夏目文と言います」
「何か飲み物持ってきましょうか?」
「あ、ありがとうごさいます。じゃあお言葉に甘えて、コーヒーを」
「わかりました」
昌己は取りに向かった。
「気の利く人だね、マックス」
「ニャオ」
「どうぞ。ケーキもあります」
「ありがとうごさいます。ではいただきます」
昌己はブラックで一口すすった。文はケーキを頬張ってご満悦。
「僕、飼うなら黒猫と決めてるんですよ」
「えっ、私もです。今は猫アレルギーの家族がいるから飼えなくて。だから、この猫カフェに通ってるの」
「僕も今アパート暮らしだから、猫は無理なんだ。猫カフェに来たの初めてだけど、楽しそうだね」
「マックスは人見知りだけど、馴れたらとっても懐いてくれるの」
「へー、猫にもいろいろな性格があるんだな」
(会話が弾んでいるな。おや? 二人の瞳孔が開いてるぞ。お互い気に入っているようだ。ここはフミちゃんのために一肌脱ぐか)
「ゴロニャーン」
マックスは起き上がり、テーブルの上に乗った。
「マックス、どうしたの?」
「ゴロゴロニャーン」
マックスは昌己の膝の上に降りた。
「ビックリ! マックスは人見知りだから、初対面の人には絶対近寄らないのに」
(ゴロゴロゴロ…)
「そうなんだ。あっ、ゴロゴロ言ってる」
「まっ、寛いでるなんて!」
(ペロペロペロ)
「嘗めてくれてるよ」
「凄い! 好かれてるわ」
(ホァー。ムニャムニャ)
「あくびして寝始めた」
「リラックスー!」
(よいしょ、あおむけになるか)
「あ、とうとう腹を見せて寝てるよ。文さん、ほらっ」
「えー! 警戒心ゼロ。私にしてくれたことないわ。すばらしい。昌己さん、猫に愛される天才ね」
「そうかな…。うれしいな」
「尊敬します〜」
マックスは薄目を開けた。
二人の頬がうっすらと紅潮している。
(しめしめ)
店長が顔を出した。
「皆様。そろそろお時間です」
「じゃあ、連絡先交換しましょっか」
「そうしましょう」
二人はゴソゴソとスマートフォンを取り出した。
「いやあ、マックスかわいいな。また会いに来たいよ。文さん、今度は一緒に来ませんか?」
「ええ、そうね!」
「早速だけど、来週の日曜日はどうかな」
「いいね。時間はいつにする?」
「そうだな…」
二人はデートの日取りを決めている。
マックスは目をぱっちり開けた。
(成功!)
「本日はありがとうございました。猫たちもお待ちしてますので、また遊びに来てくださいね。気をつけてお帰りください」
「楽しかったです」「また来ますねー」
扉が閉まると、一気に静かになった。
「みんな、今日はよく協力してくれた。ご褒美に夕食はドイツの高級猫缶だよ」
「ニャー」「ニャー」
ムシャムシャムシャ…。
(マックス、どうだった?)
(一組成立したよ)
(凄いじゃない。将来、引き取ってくれるかもよ)
(そうだな。雪は?)
(私のところは、残念!)
(そっか。でもご馳走にありつけるし、また次回、がんばろうな)
(そうね)
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