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巨大な手は、俺の攻撃で一切ダメージを受けている気配がなかった。ついには、再び後ろに反り始め、そのままの勢いで無惨な美人野郎を俺に向かって投げ捨ててきた。
「くっ。」
思わず目を覆いたく光景だったが、バラバラになった肉塊を避けるために、飛び散る血を浴びながら光弾を撃ち続けた。
全ての肉塊が自分の背後に飛んでいった瞬間、目の前が急に夜になったかのように陽の光を失った。
「涼一!上だ!!」
久利の声に視線を上に向けると、あの巨大な手が俺の真上にあり、陽の光を遮っていた。亀裂からにゅーっと伸びた腕が生気を感じることができずに、不気味だった。
「ぼーっとしてるんやないで!」
阿萬はエルマーに指示をし、手に向かって火炎を吹かせたが、手はその火炎を合図にしたかのように、火炎を浴びながら俺に向かって急降下をしてきた。
…嘘だろ!?
「涼一!」
「涼一くん!」
ドンッ!と、真上から掌底打ちを喰らった俺は一瞬で意識を失ったのだろう。
一瞬の衝撃を感じた後、気が付くとそこは森の中だった。
…うーん、あれ?ここは…い、痛っ!!
起き上がろうとすると腰に激痛が走った。どうやら、格好も元に戻ってしまっている。
「あ、いた!久利くん、こっち!」
激痛に視界が狭まる中、真上にはゆっくり降下してくる花畑さんが見えた。
「涼一くん!大丈夫!?」
「…はい。でも全身痛くて…。」
「ちょっと待ってね。すぐ回復させるから。」
花畑さんはすぐに懐中時計を取り出し、俺の身体に向けた。
「あ、あの、奴は?」
「あの巨大な手?涼一くんに一撃を喰らわせたら、裂け目の中に消えてったの。そのまま裂け目も消えちゃって。」
「…そうですか。」
「おい、もう喋るな。」
久利が俺を見下ろしながら言った。
「…あのドラゴンの攻撃も何も効かなかったことに、俺は呆気にとられちまった。何もできずにすまなかったな。」
珍しく久利が俺に謝っている。別に俺は久利に何で助けてくれなかったのかと不満など持っていない。
「…虎紋と阿萬さんは?」
「…虎紋は無理をしすぎた。まぁあいつのお陰で形勢逆転できたんだがな。向こうの公園のベンチに座らせてきた。ドラゴン野郎は、いつの間にか姿を消してたよ。」
「そうですか。」
「段々と出てくる敵も一筋縄じゃいかなくなってきてるわね。」
また身体が熱く感じる。時を戻して回復している証拠だ。
…あれ?花畑さん、つらそうな表情してないか?
俺は懐中時計を持っている花畑さんの手を掴んだ。
「きゃっ!…ど、どうしたの?」
「花畑さん、無理してますよね?」
「…無理なんてしてないわよ。」
「俺はもうほぼ回復してますから。…手、震えてますよ。」
俺の言葉に、久利は花畑さんの肩を叩いた。
「いのり、涼一の言うとおりだ。お前は力を使いすぎてる。」
「私にはこれしかできないから。みんな、命懸けで戦ってくれてるのに、私はいつも離れたところにいるだけだし。」
「お前が倒れたら、次の戦いも全力で戦えないだろ。いのりの存在は大きいんだよ。だから、今は無理しないでくれ。」
久利の言葉に頷いた花畑さんは、ゆっくり懐中時計をポケットに仕舞った。
「涼一、立てるか?…っ!?…待て。」
久利が俺に手を伸ばした時、何者かの草を踏む足音が聞こえた。立ち上がろうとした俺は物音を立てないように、変な体勢で止まっていた。
「誰かいるの?」
…可愛らしい女の子の声だ。
久利を見ると、焦った表情で花畑さんと目を見合わせていた。足音が近付いてくると、久利は俺を無理矢理引っ張って立たせた。
「身を隠すぞ。」
「…え?」
訳が分からぬまま無理矢理手を引かれた俺は足を地面に引っ掛けて転んでしまった。もうすぐそこまで迫る足音に、久利と花畑さんは咄嗟に俺を残して草陰に隠れた。
…おい!俺を見捨てやがって。てか、少女のような声の主に何でそんなにビビってんだ!?
足音が俺のすぐ真後ろで止まった。
「…誰?大丈夫ですか?」
俺は転んだ状態のまま、ゆっくり振り向き声の主を確かめた。
…あ!そういうことか。
俺は一瞬で久利たちの行動を理解した。目の前にいたのは、間違いなく橘川天音だった。
「立てますか?」
何かとんでもないモノを見つけてしまったかのような、もしくは俺を心配しているのか、なんとも言えない表情をした天音は、優しく問い掛けながら、俺に手を差し出した。
俺は一瞬抵抗したが、天音の手を握りゆっくり立ち上がった。
「あ、ありがとうございます。」
「ケガとか大丈夫ですか?」
「は、はい。あの、あなたはどうしてこんな森に?」
「森?…フフフ、ここは森じゃないですよ。公園です。私、よく考え事をするときに、この公園のこの場所に来るんです。ほら、あそこに木のベンチがあるでしょ?あそこが落ち着くんです。」
天音が指差した方を見ると、確かに木漏れ日の中に可愛らしい木製のベンチがあった。
「…あなたは?」
天音が微笑みながら俺に問いかけた。
「…えと、なんていうか、気付いたらここに。」
「え!?記憶喪失ですか!?そういえば、服もだいぶ汚れてるし、擦り傷とかいっぱいあるし…もしかして、何か事件に巻き込まれて何かの衝撃で記憶喪失!?ちょっと一緒に来てください!」
「へ?」
天音は俺の手を引いて歩き出した。木の陰からこちらを見ていた久利の視線が痛く感じ、「バーカ」と言っているのが分かった。
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