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「あなた、天音の何?」
俺は、ショートカットのその少女を見てハッと気付いた。
…確か、天音の親友の産川咲希って子だ。
「…俺は橘川さんとは別に。怪我してたのを助けてくれたんだよ。君は?」
「そう。天音に手を出さないで。」
…俺の質問は無視かよ。
「手を出すも何も…。」
「その手に持ってるのは何?」
…何なんだ、この子の観察力は。
まだ俺自身も中身を見ていない。拳を開くと一枚の紙切れがあり、くちゃくちゃに握られたそれを開くと、チャットアプリのIDと電話番号が書かれていた。
俺は咲希に絶対誤解されると悟り、急いで紙を再び丸めてポケットに仕舞った。
「どういうこと?」
「何が?」
「今手に持ってたのは何?」
「…単なるゴミだ。」
「嘘つき。天音に貰ったんでしょ!」
詰め寄りながら聞いてくる咲希を俺は躱して横を通り過ぎた。
「君には関係ないだろ。」
「…私、産川咲希。天音とは保育園時代からの親友。」
ぶっきら棒に視線を逸らしながら、自己紹介を済ませた咲希に対し、俺は咲希の目の前に移動し、顔を見ながら答えた。
「一応礼儀は通せるじゃないか。俺は、星野涼一。俺と天音ちゃんは、君が心配するような関係じゃないから安心してくれ。」
俺が微笑みながら言うと、咲希は顔を赤くして走り去っていった。俺は、咲希を見つめながら、彼女が天音に対し、特別な感情を抱いているように感じた。
「おい!」
突然、背後から聞き覚えのあるガラの悪い声がして振り返ると、苛つかせた表情の久利が俺を睨み付けていた。
「涼一、どういうつもりだ。」
「…不可抗力ですよ。自然の流れのままにこうなっただけで…。」
「断ることはできただろうが。天音には近付かないようにと言ったはずだ。天音…アンジュが自分が地球人であることを知ると何かが起こる。」
「世界が破滅するんじゃ。」
橘川家の敷地からプットが姿を現しながら言った。理解できない言葉に、俺と久利は目を見合わせた。
「全てを語ると言いながら敵の襲来で話しそびれてしまったからな。」
「…どういうことですか?世界が破滅って。」
俺が質問すると、久利はプットを睨み付けていた。プットは久利の視線を感じると、視線を逸らしながら答えた。
「王女様の魔力じゃ。我々もアンジュの力の大きさや危険さは全く分かっておらん。だが、王女様はアンジュ様のそれを恐れていた。アンジュが、自分が地球外生命体だと分かれば、必ず眠っていた魔力が蘇る。そして、その魔力は今まで使っていなかった分が溜まりに溜まり、そのエネルギーが暴発して、この地球、いや太陽系ごと消滅し、全てが無に帰するとされておるのじゃ。」
「…じょ、冗談ですよね?」
…そんな馬鹿な話あるわけがない。地球は完全にとばっちりじゃないか。この後、プットはきっと冗談だと話を切り出すはずだ。
「…無論、誠だ。」
「久利さん!」
俺は久利に振り向いた。久利はプットに鋭い視線を送ったまま、俺に答えた。
「…正直、想像以上の結果だが、それに近いことが起こる気はしてたよ。…涼一、行くぞ。アンジュの側にいるわけにはいかない。虎紋といのりも今俺の家にいる。プットから聞いたことを伝えてやろう。」
…プットのこと、ずっとプットさんって呼んでたのに、呼び捨てになったか。
「…お主たちの気持ちは理解している。巻き込んでしまったこと、心より詫びを申し上げる。」
プットの言葉に久利は何も答えることなく、ゆっくりと歩き出した。俺はプットにペコリと頭を下げて、久利を追い掛けた。
久利の家に着き、奥の部屋に通されると、虎紋が大きなベッドで寝ており、横のソファでは花畑さんが座ったまま寝ていた。
「いのり、帰ったぞ。」
「…ふぇ、…あ!ごめん、寝ちゃってた。あ、涼一くんも戻ってきたんだね。」
「すみません、心配掛けちゃいまして。」
花畑さんは伸びをしながら立ち上がった。
「で、天音ちゃんとはどんな話したの?」
「…いや、まぁ普通の他愛も無い話しかしてないですよ。」
花畑さんは、「ふ~ん。」と言いながら俺に近付き、更にぐっと顔を近付づけてきた。
「え?え?」
俺は余りの距離の近さに驚き、そして恥ずかしくなって視線を逸らした。きっと顔を赤くしていたと思う。花畑さんは、じーっと俺の目を見ていた。
「…いのり、どうしたんだ?」
「涼一くん、天音ちゃんのこと好きになっちゃったでしょ?」
「…へ?」
俺は正直ドキッとした。
「はぁ?いのり、お前何言ってんだよ。」
「久利くんは黙ってて!…で、涼一くん、どうなの?」
「な、何言ってんですか。天音ちゃんは、俺らが守らなきゃいけない対象ですよ。恋愛感情なんて持つわけないじゃないですか。」
俺は気持ちに嘘をついてることを理解しながら演技した。花畑さんは、俺が答えてる間もずっと目を見つめてきたため、嘘をつくことと、花畑さんに見つめられている恥ずかしさが混同し、何がなんだか分からなくなっていた。
「…涼一くんが誰を好きになるかは自由だけど、天音ちゃんだけは駄目だからね。」
花畑さんはそう言うとニコッと笑ってソファに戻った。
…俺はほんとに橘川天音に恋をしてしまったんだろうか。
俺はポケットに手を突っ込み、天音から貰った紙切れをギュッと握った。
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