力のルーツ

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ー 惑星ノアール ー 「まさか、グレモリーが死ぬとは。」 「ふん、俺は前から好きじゃなかったんだよ、透かした感じがな。」 「やめなさい、故人を悪く言うものじゃないですよ。」 バラムが人と頭と牛の頭で会話をしていると、バタンと背後の扉が開く音がし、口を噤んだ。 ネチャネチャという気色悪い足音をさせながら入ってきたのは、半魚人の姿に背中からイカの触手を生やした不気味な姿をしたフォルネウスだ。 「バラム、待たせたな。」 「いえいえ、フォルネウス殿からお呼びがかかるとは恐縮です。」 フォルネウスはそのまま部屋の奥側の腰掛けにゆっくりと座った。 「グレモリーのことは知っておるな。」 「えぇ、ガーディアンに殺られたと。油断したのだとは思いますが。」 「…ふむ。確かにグレモリーはガーディアンらの力を舐めていたのかもしれんが、グレモリーの息の根を止めたのはエコー様だ。」 「…は?」 「エコー様も焦られておる。我々は元々、魔力により生まれた存在。役に立たぬと判断されれば、エコー様の中に魔力のみ吸収しようということだろう。」 「…所詮、我々は兵隊というわけですか。」 フォルネウスは、バラムの表情を見て立ち上がった。 「…バラム、お前何か良からぬことを考えてはいまいな。」 「エコーに殺られる前に殺っ…」 「…何をおっしゃいますか。私はエコー様に命を捧げる身でございます。それよりも、私をお呼びしたご案件とは?」 悪態をつく牛の頭の口を押さえながら、人の頭が問い掛けた。 「…ふむ、グレモリーが殺られた今、バラム、お前に出撃命令を出させて貰う。良いな?」 「畏まりました。必ずや、ガーディアンらを亡き者にし、アンジュをエコー様の前にお連れいたします。」 ー 地球 ー グレモリーとの一戦から三日が経過したが、あれ以降特に敵の襲来もなく、俺は通常の学生生活を送っていた。天音のチャットアプリには未だに連絡はしていないが、IDの紙切れはいつも使っている鞄に入れている。 だが、虎紋はあの日から学校に姿を現していない。電話にもメールにも応えてはくれない。怪我という怪我は花畑さんの力で治っており、身体的なものではないとは思っている。 …まぁ、あんな異世界人との戦いに巻き込まれたんじゃ、精神的に普通じゃいられないよな。今日の帰りに家に寄ってみるか。 休み時間、そう考えながら教室の窓からボーッと校庭を眺めていると、校門で手を振る人物が小さく見えた。目を細めて凝視すると、花畑さんだと分かり、すぐに教室を飛び出し、校門まで急いだ。 「…はぁ、はぁ、はぁ…どうしたんですか?」 「ごめんなさい、学校なのに。虎紋くんって学校来てる?」 「いや、あの日以降来てないんです。メールも電話も駄目で、実は今日帰りに虎紋の家に寄ろうかと思ってまして。」 「そうなんだ。私も行っていい?」 「えぇ、勿論。でも、どうしたんですか。虎紋に何か用事でも?」 「…用事っていうか、ちょっと話したいことがあってね。教えて貰ったIDにチャット送ったんだけど、既読にもならないから心配になっちゃって。」 「そうですか。あ、花畑さん、一つお願いが。」 「ん?」 「虎紋の家の後で、勉強教えて貰ってもいいですか?約束の。」 「うん、勿論よ。じゃあ虎紋くん家の後、うちに…」 「図書館行きましょ。」 …あの家で勉強なんかはかどるわけがない。 放課後。俺は花畑さんと合流し、虎紋の家を目指した。家と言っても普通の家じゃない。この周辺で最も大きな寺、北条(ほうじょう)寺が虎紋の実家だ。虎紋の話では、戦国時代から続く寺で、虎紋は後継ぎとしての自覚もあるようだ。毎朝、現代の父と同じ行動をして、日々修業しているとさえ言っていた。 花畑さんと、医学部の勉強についての他愛も無い会話をしているとあっという間に到着して、俺は指差しながら花畑さんに教えた。 「ここです。」 「え?虎紋くんの家ってお寺だったんだ。しかもでっかいね。」 「ここの親父さん、住職なんですけど、昔っから怖くて。行きましょ。」 俺が先導して寺の門を潜り、本殿の横に建つ母屋を目指した。 「住職って、虎紋くんのお父さん?」 「そうですよ。坊主でガタイもよくて、謎に日焼けもしてて、見た目は間違いなく反社会的勢力…」 「だーれが反社会的だって。」 背後から太い声がして、俺はビクッと足を止めた。恐る恐る振り返ると、買い物袋をぶら下げた虎紋の父、劉玄(りゅうげん)が立っていた。 「親父さん…こ、こんにちわ。」 俺は完全に血の気が引いていた。 「久しぶりだな、涼くん。事実無根のことを口にするのは感心しないな。」 「す、すみません。」 俺がチラリと花畑さんを見ると、花畑さんは必死に笑いを堪えていた。 「…こちらのお嬢さんは?」 「あ、わ、私、花畑いのりと言います。えっと…」 「あれです!前に図書館で虎紋と勉強してたら隣にいらして、それ以来勉強を教えて貰っているっていう。」 俺は無理矢理な内容で困っていた花畑さんを助けた。 「ほう、虎紋にこんなお綺麗な女性の知り合いが。で、虎紋に用事が?」 「はい。ここ最近学校に来なくて。」 「…は?学校に行ってない?」 親父さんの表情を見て、俺と花畑さんは目を見合わせた。
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