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「親父さん、虎紋は学校に行くって家を出てるんですか?」
「あ、あぁ、いつも通りというか。同じ時間に制服着て出てってるぞ。特に学校からの連絡もないし、普通に登校してるものだとばかり…。」
「先生は、虎紋が直接体調不良の連絡をしてきたと言ってました。親父さんが住職で朝は忙しいのを先生も知ってましたから。」
「…ふむ。いずれにしろ、私は父親失格だな。…母親だったら気付いてあげられてたのかもしれんな。」
「…親父さん。」
虎紋の母親は虎紋が小さい時に不慮の事故で亡くなっていることを虎紋から聞いていた。うつ向く親父さんは、強面だが繊細だ。さりげなく涙を拭っていた。
「いつもなら、もうじき帰ってくる時間だ。中で待つかい?」
「は、はい。…あのぅ、多分、虎紋は親父さんを心配させないために嘘を付いたんだと思います。なので…」
「分かってる。ちゃんと話を聞くよ。」
親父さんは俺に安心しろという意味で、ポンポンと肩を叩いて母屋に入っていった。花畑さんは、心配そうな目で親父さんの背中を見つめていた。
客間に通された俺たちは、出されたお茶を飲みながら虎紋の帰りを待っていた。
「…虎紋くん、学校さぼってどこに行ってるのかしらね。」
「全く検討もつきませんよ。俺は中学校からの付き合いですけど、学校をさぼったことなんて無かったですし。」
「そう。なんかあったのかしらね。…虎紋くんがこんな立派なお寺の後継者だとは思わなかったわ。…この部屋も広いしね。」
花畑さんは20畳はあろうかという、この客間をぐるりと見渡した。俺もいつも来たときには虎紋の部屋にしかいかないため、この部屋は初めてだ。
すると、花畑さんはおもむろに立ち上がり、部屋の床の間の前に移動すると、じーっと掛け軸を見つめた。
「どうしたんですか?」
「あ、うん。虎紋くんって、ガーディアンの姿が忍者だったじゃない?この掛け軸、全部は読めないけど「忍」の文字があったからつい。」
「どれどれ…あ、ほんとですね。これは「仁」かな。」
スーッと襖が開くと、親父さんが茶菓子を持って入ってきた。
「あれ、どうしたんだ?掛け軸なんか見て。」
「あ、親父さん。この掛け軸って何て書いてあるんですか?」
「忍の心得、仁義忠信だ。」
「忍って、忍者のことですか?」
花畑さんが質問すると、親父さんは頷きながら答えた。
「ええ、そうです。私の先祖は忍者だったんですよ。」
笑いながら話す親父さん。親父さんとしては、冗談のつもりなのか、もしくは話しても信じて貰えないと分かった上での笑いなのか、どのみち、俺と花畑さんは驚いて目を見合わせた。
「…え?何だ、そんな表情して。」
「あ、あの親父さん、今の話はほんとなんですか?」
「あ、あぁ。詳しく聞きたいなら、まぁ菓子でも食いながら。」
親父さんは俺たちに席に座るように促し、自分は対面に座った。
「君たちは忍者と聞いて、何を想像する?」
「…全身黒い衣装で、手裏剣とかクナイとか…こう敵の城に忍び込んで巻物盗んでくる、みたいな。」
「確かにそういう忍者もいたかもしれん。だが、そればかりが忍者ではない。忍者の仕事は諜報だ。」
「諜報って、機密情報とかを入手するやつですよね?」
「そう、お嬢さんの言うとおり。そして、人に直接話を聞いたりするのもその方法の一つだ。だが、そうなると黒い衣装というわけにはいかない。つまり、忍者ってのはあらゆる職種に変装して諜報活動をしていたんだ。」
「へぇ。」
俺は親父さんの話に聞き入っていた。
「で、寺の住職なんてのは正にそれに適してたわけだ。おそらく、先祖がこの寺に入ったのは住職の真似事だったと思う。だが、その後の子孫がしっかりと住職の道を歩み始め、今の私がいる。有り難い事に虎紋もこの寺を継ぐ意志を持ってくれてはいるが。」
…つまり虎紋には忍者の血が流れているわけか。ガーディアンの能力がそうした潜在的な何かに影響してるのかもしれないな。だが、俺をはじめ、他の人は全くわからんけどな。
すると、ガタッと玄関が開く音がし、三人は音の方向に一斉に振り向いた。
「虎紋のやつが帰ってきたか。」
親父さんは立ち上がり、迎えに部屋を出ていった。
「花畑さん、ガーディアンの能力って…。」
「涼一くんの言いたいことは分かるけど、私には何とも。」
俺と花畑さんがお茶を啜りながら待っていると、平和な時間が一変する叫びが家中に響いた。
「…お前、誰だ!!うわああああっ!!」
「…親父さん!?」
俺は部屋を飛び出し、玄関に急いだ。目の前に飛び込んで来たのは、左腕に胸を貫いた親父さんをぶら下げた血まみれの大柄な男の姿だった。
「うわああっ!!」
「何!?涼一くん!?」
「花畑さん、こっちには来ないで!」
俺は距離を保ちながら、男を睨みつけた。男は何も言わずに、俺をじっと見ていた。スキンヘッドで筋肉隆々、身長はゆうにニメートルはあろうかという姿は恐怖を感じずにはいられなかった。
「…ぐぐぐ…お前、ガーディアンか?」
男がじっと俺を見ながら口を開いた。何というか、どもってるような聞き取りずらい声だ。
「…その人を離せ!」
男はぐぐーと首を横に向け、自分の腕で貫いている瀕死の状態の親父さんを見た。
「…もう死ぬぞ、こいつ。」
「…返せ。」
「は?今何て…」
「返せって言ってんだよぉ!!」
俺はガーディアンに変身し、レーザー銃を放った。
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