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「うおおおおおっ!!」
「「え!?」」
突如、俺と花畑さんの前を虎紋が通り過ぎ、男に向かって突進していった。
「虎紋やめろ!そいつに物理的攻撃は効かないぞ!」
「よくも親父を!」
…駄目だ、虎紋の奴、完全に血が上っちまってるな。
「虎紋くん!!」
花畑さんが虎紋に向かって、懐中時計を翳した。その瞬間、虎紋が空中でピタッと止まった。
「花畑さん、ナイスです。」
「お父さんは命に別状がないところまでは回復させたけど、傷が深すぎて私の力では完全には治せないの。病院に連れて行った方がいいわ。」
「でも、あの男を…ん?は、花畑さん!!見てください!」
俺は空中で止まったままの虎紋の先にいる男を指差した。男も腕を振り上げたまま一時停止ボタンを押したようにピタリと止まっていた。
「…え?敵にも私の力が効いてる?」
「そうですよ。動きを静止出来ればもう怖いもの無しじゃないですか!」
「う、うん。」
花畑さんは戦いの役に立てることが本当に嬉しかったのか、涙ぐみながら頷いた。
そして、その場で意識を失ったように倒れた。
「え!?花畑さん!?」
「力の使い過ぎじゃ!」
玄関から聞き覚えのある声がし、視線を送るとプットが顔を出した。
「プット…さん。」
「ふん、全く花畑殿も無理をしすぎじゃ。」
「でも、花畑さんの力は今までテネブル軍には効かなかったのに、こいつには効いてる。花畑さんの力が成長したってことじゃ。」
「いや、花畑殿の時を操る力がテネブルに通じなかったのは、力の具合ではない。」
「それは…。」
「そもそもの次元が違うのじゃ。テネブルの輩と地球人は時の流れが違う。故に花畑殿の力は通じなかったのじゃ。しかし、今ここで時が止まっているこやつは、テネブルから離れたことにより、時の流れが変わった。おそらく、こやつは何日かをこの地球で過ごしておったのだと思う。」
「…身体が地球に慣れたってことか。」
「とにかく、早くこの場から離れることじゃ。尼崎親子と花畑殿に触れながら吾輩の身体に触れるのじゃ。」
俺はプットの言葉の理解をしないまま、奥の部屋にいた親父さんと、宙に浮いていた虎紋を花畑さんの元に集め、右腕で三人に触れながら左手でプットの背中に触れた。
「…ぐがっ!」
その瞬間、花畑さんの力で止まっていた男が目を覚ましたように動き始めた。
「ん?俺は一体…ん?お前ら一体何を。」
男が再び腕を振り上げ、振り下ろそうとした瞬間、身体が何とも言えぬ感覚に襲われ、思わず目を閉じた。
「…星野殿、目を開けるのじゃ。」
プットの声で目をゆっくり開けると、見覚えのある公園にいた。
「…あれ?さっきまで虎紋の家に居たはずなのに。」
「親父!!」
虎紋がまだ意識を取り戻していない親父さんを支えた。花畑さんはまだ意識を取り戻していない。
「花畑殿の力でも尼崎殿の父上を全快させることは難しかったようじゃな。すぐに病院に連れて行くことじゃ。」
プットの言葉に虎紋は頷くとスマホを取り出し、救急車を呼んだ。
…虎紋、救急隊や医者にどう説明するつもりなんだ。
「星野殿、さっきの奴はまた我々を探して来るであろう。アンジュの居場所がバレるのも時間の問題じゃ。」
「…奴らはアンジュの居場所がすぐに分かるわけじゃないんですか?さっきの男の言葉だと、ガーディアンを知ってるようだったが…。」
「恐らくは、王女様の魔力のせいであろう。当然、アンジュの生命を守るために力を注いだ。テネブル軍はアンジュの居場所をハッキリとは分かってないのかもしれんな。」
数分後、救急車が到着し、親父さんと虎紋は救急車に乗って病院に向かった。
花畑さんは、プットの助言で俺が背負って家に送ることにした。そして、花畑さんを背負っている途中で、プットは知らぬ間に姿を消していた。
俺は通行人の視線を感じながら足早に花畑さんのアパートを目指した。
プットは言っていた。力の使い過ぎには休養することが一番だと。つまり、家に帰って寝てろということだ。
アパートに到着すると、見知った男が立っていた。
「…久利さん。」
「背中の荷物はどうしたんだ?」
「その表情だと、もうプットさんに聞いてるんじゃないですか?」
「いのりは大丈夫なのか?」
「プットさんが家で休ませろって。」
「そうか。」
すると、久利はアパートの中に入り、花畑さんの部屋の前に着くと、鍵を取り出してドアを開けた。
「…合鍵持ってるんですか。」
「あ、これ。まぁ合鍵っちゃ合鍵だけど、お前が想像してるような仲じゃない。ガーディアンになった時に、互いに何かあったらって意味で合鍵を交換してるんだよ。まさしく今役立ったじゃねぇか。…てか、相変わらずきったねぇなぁ!この部屋!」
…そうだった。花畑さんは典型的な片付けられない女だった。というか、前に来た時より酷くなってないか。
久利はゴミを掻き分けながら廊下を進み、先に奥の部屋へと入っていった。
「うおっ!相変わらずこっちの方も…。」
…ん?
途中で言葉が途切れた久利を不思議に思い、俺は花畑さんを背負ったまま、廊下のゴミを避けずに踏み潰しながら奥の部屋のドアに辿り着いた。
「涼一、来るな!」
久利の叫びにドアの隙間から中を覗くと、あの巨体の男がゴミの山の中に座って久利を静かに睨み付けていた。
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