力のルーツ

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「…親父の仇、はて何の話ですかな?」 「俺はお前の仲間のその筋肉馬鹿に言ってんだよ!」 虎紋は一瞬でバラムの横を通り過ぎ、動けないままのフォラスの目の前に移動した。 「お前だよな、俺の親父を半殺しにしたのは。」 フォラスは虎紋から目を逸らした。 「…あぁ、そうだ。」 「くっ!」 「待て!虎紋!!」 久利が虎紋を背後から押さえつけた。 「何するんですか!久利さん!こいつは殺さなければ。」 「今の敵はこいつじゃない、あっちだ!」 「関係ない!俺はこいつが許せないだけだ!!」 フォラスを見た虎紋は、完全に我を見失っていた。それは、虎紋の目を見た久利も理解しており、バラムに視線を送りながら、虎紋を止めることを考えていた。 バラムは刺し傷から血が溢れており、すぐに動ける状態では無さそうだと判断した久利は、虎紋の目の前に移動した。 「虎紋、落ち着け!親父さんは大丈夫だったのか?」 「…命は助かりましたよ。でも、今まで通りの生活は送れないかもしれないって医者に言われましたよ。」 「そうか。」 「どいてください。」 「…駄目だ。今は我慢しろ。」 「…どけって言ってんだろうが!!」 「…くっ。何だよ、これ。」 久利の目の前にいる虎紋は目が血走り、何かに取り憑かれたように殺気立っていた。その放つ気迫に久利は一歩退いた。虎紋は我を忘れように、そのままクナイを手に久利に襲い掛かった。 カキン!久利は剣で攻撃を防いだが、虎紋が自分を殺しに掛かってることを悟った。 「虎紋!目を覚ませ!」 虎紋は、呼吸を荒くし、身体を震わせながら再びクナイを構えた。 「何で邪魔をするんですか!?」 「今の敵はこいつじゃない!向こうの…」 久利はハッとした。さっきまでいた場所にバラムの姿が無かったのだ。久利は左右を確かめた。しかし、視界にバラムの姿はない。 「くそ!見失ったか。」 久利が正面に視線を戻すと、目の前の虎紋が口から血を流して意識を失っていた。 「…こ、虎紋?」 虎紋がそのまま落下すると、背後にいたバラムが姿を現した。 「バラム、てめぇ。」 「身代わりの術などとふざけたまねをする者は排除しました。」 「ふん、お前もう死にかけてるんじゃねぇか。」 久利は剣を構えながら、フラフラしているバラムを見て言った。 「このまま負けるわけにはいかないですからね。」 「強がりかよ!」 久利はバラムに斬り掛かった。すると、再び牛頭が角で華麗に久利の攻撃を何度も受け止め、全てを弾き返した。 「…まだ体力ありやがるじゃねぇか。」 「もう少しですから。」 「…もう少し?」 「私はガーディアンを一人でも多く殺せればそれでいい。エコー様のお役に少しでも立てるなら。」 バラムは引き攣っていた表情からニヤリと笑った。あんなに偉そうな口調で話していた牛頭はだんまりを決め込んだかのように口を開かず、久利を睨み付けるだけだった。 「…なんだ、この感じ。」 久利は一瞬で全身にゾワッと悪寒が走った。嫌な空気だ。この死にかけのような状態のバラムに何の手がある。脂汗をかいた人頭、何も話さなくなった牛頭と、よくわからない存在の羊頭。 …ん?羊頭。 久利は違和感に気付いた。ずっとブツブツと何かを唱えていた羊頭が一切何も話さなくなっていたのだ。久利が慌てて羊頭に目を向けると、その表情は白目を向いて口からは唾液が垂れていた。 「…詠唱終了のようです。」 次の瞬間、バラムは一瞬で久利の眼前に移動し、久利を羽交い締めにした。 「な、何しやがる!?離せよ!」 「これで終わりですよ。あなたもこの世界もね。」 バラムは再びニヤリと笑った。 「何をする気だ!?」 すると羊頭の白目に黒目が戻り、首を回して久利の顔を見つめた。一言で言えば不気味そのものだった。 「…Fin。」 羊頭が頭の中に響く低い声で一言発した瞬間、バラムが白く発光し、そのまま大爆発をした。 ー ヴェール星 ー 15分前。 「…もうお仕舞いかの、星野殿。」 俺の耳には微かにそう聞こえた。全身の痛さに血液がまとわりつく不快感が重なり、更に呼吸も苦しく、その度に胸が痛かった。 「…全身創傷、全身打撲、肋骨五本、右足首の骨折…といったところかの。安心せぇ、まだ命に関わる傷はない。」 ふざけんなよ、こんだけの傷を負わせておいて何が命に関わらないだ。死にかけてるじゃねぇか。 「死にかけてるのは星野殿だけじゃない。」 プットは俺の心が読めるのか?俺はボヤケた視界のままプットの方を向いた。プットは掌を翳して空間に映像を映し出した。 「…なっ!?」 煙幕が晴れた後に現れた無惨な久利の姿。俺は剣を見て咄嗟に久利と判断したが、その原型も留めていない姿に、一気に吐き気が迫ってきた。 「うおぇ。…く、久利…なのか。うおぇっ…。」 プットは映像を切ると俺に近づき、うつ伏せで倒れていた俺の上半身を無理矢理に起き上がらせた。全身に激痛が走る。 「弱音を吐くな!今のを見ただろ!手を抜けば星野殿も久利殿と同じ姿になるぞ。ガーディアンがいなくなればアンジュは拐われアースは終わる。お前さん達には既に多くの命が背負わされてることを忘れるでない!」 …ふん、望んでもいねぇのに勝手にガーディアンに選んどいて随分言うじゃねぇかよ。 「…花畑殿も久利殿と同じになるぞ。」 …くそ、汚ねぇなぁ、ほんとに。 俺は痛みに耐えながらゆっくり立ち上がり、プットを睨み付けた。 「いい目だ。」 プットはニヤリと笑った。
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