740人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
『好き』な気持ちはどれくらい続くのかな?
3ヶ月も持たないカップルがいれば、一生を添いとげる夫婦もいる。
もしかしたら、本物の『好き』は本当は分かりにくくて、『好き』だと勘違いした思いは続かず、本物の『好き』に出会えた人はずっと思い続けていられるのかもしれない。
じゃあ、僕の『好き』は本物?それとも偽物?
初めから好きだった。
一目惚れ?
多分そう。
本当に、最初に視界に入った時からドキドキして、顔がほてった。
その人は僕の乗ってる電車に乗ってきて、ドアの横の手すりに掴まっていた僕の前を過ぎて行った。たったそれだけ。他にもたくさん乗客がいたというのに、僕の目にはその人しか見えず、すぐに視界から外れてしまったというのに、僕の胸はずっとドキドキが止まらなかった。
高校生になって初めての登校。
初めての電車通学。
初めての満員電車。
そこで出会った初めての恋。
それが恋だと気づくのに、実はずいぶんかかった。
だって、誰かを好きになるなんて初めてだったし、その人はかっこいいけど普通のサラリーマンで・・・あ、でもアルファだから普通ではないかも。でも他にもアルファの乗客はいたから、特にその人だけ特別だったわけじゃない。
だけど、同じ電車の同じドアから乗ってくる多くの乗客の中で、何故か僕はその人にだけドキドキして、顔が熱くなった。
その人が見えるのはドアが開いて入ってくるほんの数秒だけ。その後は乗客の波に乗って奥に入っていってしまって、ドア横の隅にいる僕は振り向けもせず見ることも出来ない。
毎朝繰り返される、ほんの数秒の出会い。
それでも、僕がその人の香りを覚えるのにそう時間はかからなかった。
会えるのは数秒でも、その人の香りを感じながら乗る電車は僕にとって幸せな時間だった。色々な人の色々な香りの中で、だけどその人の香りは何故かすぐに分かる。振り返ることは出来ないけれど、そんなに離れていないところにいるのを感じる。それだけで良かった。
きっと僕の事なんて知らない。視界の隅にも入っていない。でも、そうやって存在を感じているだけで僕は満足だった。
だから、会えない週末がもどかしくて月曜日が待ち遠しかった。
毎日会いたい。
毎日あの人の香りを感じたい。
そう思ってしまう自分の気持ちが、恋だと気づいたのは幼なじみに初めて彼女が出来た時だ。
聞かされる惚気話がうらやましかった。
僕もあの人と話したい。
一緒に出かけたい。
もっとそばに行きたい・・・。
だけど僕はただの高校生。たまたま満員電車に乗り合わせた赤の他人。その人に話しかける勇気なんて、僕にはなかった。
思ってるだけでいい。
その人のことを考えてるだけで良かった。
毎朝一目だけ会えて、香りを感じて、そして一日中その人の事を思う。
僕はそれだけで満足だった。
だけど、それは突然起こった。
いつものように電車に乗り、いつものドア横の隅に寄る。そしてあの人の姿を見て、香りを感じて、僕が降りるまでのほんの十数分を、あの人を感じながら乗っている、それだけのはずだった。
最初のコメントを投稿しよう!