やっぱり「あれ」が必要でした

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やっぱり「あれ」が必要でした

 俺は竜樹と会った日から、数日間眠りっぱなしだったらしい。  どこか悪いのかと、エレナに相当心配させてしまったが、やはり人間への変身が相当体力を消耗させたのだろう。  目覚めた後、近くの岩礁に上がってみたが、やはり人魚のままだった。  エレナなら何か知っているかな。  エレナは先日亡くなったシーラの元をしょっちゅう訪れていたから、そういった言い伝えとかも聞いているかもしれない。  でも…絶対怒られて、外出禁止にされそうなので聞くのをやめておいた。  竜樹、待っているかな。  魚の群れと戯れながら、つい、島の方へ向かってしまった。  ダメだ、ダメだ。人間と関わったら…。  ギターの音が聞こえる。  『リメンバー・ミー』だ。  『俺を思い出して』なんて、格好つけすぎだろ。  仕方ないな、と呟きながら俺は島の方へ泳いだ。  何故だろう。顔が、にやける。  竜樹のヤツ、俺が歌うまで『リメンバー・ミー』を繰り返すつもりか?  それとも練習中?  俺がこの曲を知っているとも限らないだろう。  でも、知っている。たまたま繰り返し観ていた映画の一つだからな。  突堤にたどり着く頃、スカートを履き、海面から顔を出す。  そして、小さく歌いだした。  ギターの音色に合わせて。 「やっと現れてくれたな、俺の人魚姫」  竜樹の声に驚き、突堤を見上げた。  竜樹が、すぐそばの突堤から顔をのぞかせていた。
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