息が出来ねぇ!

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息が出来ねぇ!

 寒い…。春も終わりの5月なのに…、急に寒くなってきた。 「はっ、はっ、はっ…」  全身がガタガタ震えてきた。  呼吸がうまく出来ず、自分の鼓動がうるさい。  吐き気がきたのでトイレへ向かおうとしたが、上手く歩けず、倒れ込んでしまった。  倒れた拍子に床に並べたビールの空き缶が散乱する。  コレってやばい?俺、急性アルコール中毒ってやつ?  一人暮らしの俺は、救急車を呼ばなくてはヤバい状況だと悟った。  携帯…どこだ。  あぁ、そうだ。あの子の電話番号を携帯のアドレス帳から消して…ベッドの方に投げつけたんだ。  入社して5年間ずっと片想いしてきた、総務部のあの子。  来月寿退社をすると聞いた。  接点は同期入社という事だけで、彼女にアピールするどころか、話しかける事すら出来ないヘタレであったことは自覚しているが…ショックなものはショックだ。  飲めない酒を色々買い込んで、アパートの自室で一人ヤケ酒。  携帯に保存してあった、総務部のフロア全体の画像。  そこにはパソコンに向かって仕事をしているあの子が小さく写っている。  会社で会えなかった日は、画像を拡大し、眺めては仕事の疲れを癒していた。  5年前の入社式の日、同期の皆で電話番号の交換をしたから得ることが出来たあの子の電話番号。彼女の携帯にも僕の名前と電話番号が登録されていると思うと…幸せな気分に浸れた。  その画像も電話番号も消去された携帯は、価値の無いものに思え、ベッドの方に投げつけてしまったのだ。  ……。  今めっちゃ必要ですーーーーー!!!  携帯の場所がわかっても、動くことが出来ない!  グ…ゲホッ!  吐いたものが喉に詰まり、呼吸が出来ない。苦しい…!  遠のく意識。  冷たくなる手足。  俺、このまま死ぬのか…。  親父、お袋、ごめんなさい。  次、生きて会うことはちょっと無理そうです…。
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