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「また今度、歌いに来いよ」
お姫様抱っこをしたまま竜樹が囁く。
「…いつまでここに居る?」来れるなら、来たい。歌いたい。
「予定では2,3ヶ月…俺今、絶賛雲隠れ中だから」
「何だそれ」二人笑いあった。
30歳の男が雲隠れ?仕事をしてないのか?
気にはなったが、自分も突っ込まれると危うい立場。余計な詮索はしないでおこうと思った。
「本当に大丈夫か?足、痛いんだろう?」
突堤の梯子のところで俺を降ろした竜樹が心配そうに言う。
「大丈夫。慣れているから」
そう言って俺は海に吸い寄せられるように飛び込んだ。
「テトラ!!」
続けて竜樹が海に飛び込んだ。
何で来るんだよ!
びっくりした俺は竜樹を抱き抱えて、水面に顔を出し、梯子を掴ませた。
「何してるんだよ!」俺が怒鳴る。
「いや、テトラが海に落ちたのかと…」本気で心配してくれたらしい。
「泳げないくせに何やってるんだよ」
「泳げるさ!さっきは足がつっただけだ!…とにかく無事でよかった」
竜樹が俺の頭を撫でる。
「…早く上がれよ。俺、もう行くから」
スッーっと竜樹から離れ「またな」と言って村の方に泳ぎ始めた。
「待ってるから!」
竜樹の声がしたが、振り向かず、顔を水面から出したまましばらく泳ぎ続けた。…尾びれを上手に動かして。
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