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物語では食べないよね?
俺は外のシャワーを浴び、コテージに入った。
電気も付けず、物音を立てないようにそっと寝室に戻る。
闇夜で目が効いているということが、まだ完全に人魚になっていない証拠の一つなのだろう。
セミダブルのベッドの中央で、竜樹が寝息を立てている。
俺はベッドの端に座り、竜樹の寝顔を見つめる。
どうやって殺そう?
殺さず腕だけ、とかではダメなんだろうな。
人魚姫の物語では、人魚の姉妹が短剣を持ってきてくれて…王子を愛するあまり殺すことが出来ず、人魚は泡になって消えることを望んだ。
俺の場合は…竜樹を殺さなかったら人魚には戻れなくても、竜樹とこのまま暮らせる?
答えはノーだ。
竜樹はいつか本土に戻る。連れて行っては貰えないだろう。そしてきっと俺は泡になる。
ーーー人魚は涙を流すと泡になる。
シーラが死んだ時、泣きそうになった俺をエレナが全力で止めてくれた。
竜樹は…きっと本土では御曹司か何かだ。
時々竜樹が誰かと電話している時に会話を少し聞いてしまった。
こんな小さなコテージではあるけどプライベートビーチなんて一般市民にはあり得ないし、テレビなど余分なものは一切ないが、持っているものはさりげなく良い物を持っている。
あのギターだって…こんな海風に当てることが怖くなる位のシロモノだ。
ふと、ベッドから竜樹の手が伸びてきた。
「テトラ…」
寝ぼけているのか、虚ろな目でこちらを見ながら俺の頬を撫でる。
そのまま下唇をなぞるから、俺はその指先を舐めた。
竜樹は両手で俺を引き寄せ、再び俺をベッドに沈めた。
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