7人が本棚に入れています
本棚に追加
朝焼け
竜樹が眠りにつく頃、そっとベッドから抜け出した。
外はまだ暗いが、水平線がほんのりオレンジに色づき始めた。
服を着て、ひとりビーチに出た。
この朝焼けを拝むのは、最後かもしれない。
いっそ、人魚の歌声で迎えにくるクルーザーを沈めてやろうか。
そうすれば、竜樹はずっと…。
だめだ、そうしたところで竜樹がずっとここに残るわけがないし、むやみに人を殺したくない。
海をぼんやり眺めていると、背後から竜樹が近づいてきた。
竜樹を見た瞬間、ひとすじの涙が俺の頬をつたった。
「俺さ、人魚なんだ」精一杯の笑顔で伝える。
冗談として受け取ってもらっても良いから、竜樹には聞いておいて欲しかった。
「…知ってた」
「は?」意外な言葉に、俺が驚いた。
「確信なんて無かったけど、なんとなくそんな気がしたんだ」
竜樹は俺の頬の涙を拭って、そっと涙の後にキスをした。
「島の裏の村にテトラのような娘は居ないって聞いたし、島の人間がこちら側に来ることは、そうないはずだ。テトラが時々海に向かって何か話している姿も見かけた。何より…一番初めに助けてくれた時、テトラが海の底で沖の方から泳いできたのが、遠のく意識の中見えたんだ」
最初からバレていたとは…。
だからふざけた「人魚姫ごっこ」にも付き合ってくれたのか。
「ごめん、その事を言ってしまうと、テトラにもう会えなくなるかと思って…言えなかったんだ。でも、妙に人間の生活に慣れているし、違うのか?とも思ったりして…」
「だって俺、前世は人間だから。しかも男。笑えるよな」
ふたすじ目の涙が溢れた。
その瞬間、足先にゾワっとした感覚が襲ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!